AI氷河期とは、これまでの技能や知識がAIにとって替えられ、就職が困難になる時期を意味し、昨今のアメリカの就職活動状況を示す用語となっています(「AI就職氷河期」)。AIへの投資が活発化している米国シリコンバレーからは、AIによる代替業務の影響で、新卒者の就職が困難な時期が到来していることが伝わっています。
一方、他の先進国と比較して、日本ではAI技術の発展が停滞し、投資や研究開発がさらに減速する時期が到来することをも意味します。「生成AIの活用」(2023年9月号)でも紹介したAI活用による生産性向上がさらに重要となります。今回は労働環境を提供する企業側、とくに経営資源に乏しい日本の中小企業が直近で講じるべき対応策について考えてみましょう。
1 AI人材のリスキリングと多様化
AI技術の停滞期であっても、AIを使いこなせる人材の重要性は変わりません。学校での教育もAIを使う側としての側面にもっと焦点を置くべきでしょう。また、AIの専門家だけでなく、ビジネス部門の既存の従業員にもAIリテラシーを高める研修を実施し、データ分析やAIツール活用を全社的に推進します。
AI開発者には、ビジネス理解やプロジェクトマネジメントといった、より幅広いスキルを身につけさせることで、変化する市場環境に対応できる柔軟な組織を構築します。これにより、技術の進歩に依存しない、自律的なAI活用能力を、企業文化として定着させることができます。
2 AIへの投資と利用の「選択と集中」
全てのAIプロジェクトに均等にリソースを配分するのではなく、企業のコアビジネス(得意分野)に直結し、明確なROI(投資収益率)が見込めるAI活用に絞り込みます。例えば、顧客サポートの自働化や製造プロセスの最適化など、コスト削減や生産性向上に直結するAIモデルに焦点を当てます。これにより、無駄な投資を避け、限られたリソースを最も効果的な分野に投入します。
3 既存AI資産の最大活用と効率化
新たなAIモデルの開発を急ぐのではなく、既に導入済みのAIシステムやデータを最大限に活用します。具体的には、既存モデルの性能改善や、異なる部門間でのデータ共有を促進し、新たな価値を創出します。これにより、大規模な新規投資を抑制しつつ、AIの恩恵を継続的に享受することが可能になります。また、AIモデルの運用コストを削減するため、より効率的なアルゴリズムやハードウェアの導入も検討すべきでしょう。
これらの対策は、日本企業が、遅ればせながらも今後競争優位に立ち、AI技術の動向に左右されない、持続可能な企業力を確立するために不可欠です。

賃金システム研究所🄬所長 賃金改革のプロ・プラチナ企業育成のマイスター🄬
主な著書:「新訂2版 賃金システム再構築マニュアル」、
「赤津雅彦の賃金改革キーワード」、
「伸びる組織のための人事・賃金基礎講座」等
(注)「プラチナ企業育成マイスター」は登録商標です。


