日本では近年夏季の猛暑が常態化し、熱中症による労働災害が深刻化しています。特に屋外作業や工場内での高温環境下では、従業員の健康被害や死亡事故が発生しており、企業には労働安全衛生法の観点からも熱中症対策の強化が求められています。
厚生労働省もガイドラインを示し、熱中症予防の取り組みを義務化する方向に進んでいる背景には、単なる労働災害防止にとどまらず、持続可能な働き方改革の一環として「誰もが安心して働ける職場環境」を整える狙いがあるのです。企業の生産性向上のみならず、従業員を犠牲にしないためにも、企業は以下の3点を重点的に実施すべきなのです。
(1) 労働環境の整備
作業場の温湿度管理を徹底し、空調設備や遮熱シート、送風機の設置などにより環境リスクを低減させます。また、暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature、「湿球黒球温度」)の測定を行い、とくに基準値(WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えて実施)を超える場合は作業中止や軽作業への切り替えを判断できる体制を構築することが必要です。
(2) 労働時間と休憩管理の徹底
働き方改革の観点からも、長時間労働を避け、特に高温環境下では定期的な休憩と十分な水分・塩分補給を義務づける仕組みを整えることが重要だとなっています。
休憩所を冷房完備の空間として整備することも効果的です。これは単なる健康管理にとどまらず、従業員の集中力や安全意識の維持に直結し、結果的に労働生産性の向上にもつながるのです。
(3) 教育と意識啓発
従業員に対して熱中症の初期症状や応急処置方法を周知徹底し、体調不良を早期に申告できる職場文化を醸成する必要があります。また、管理監督者がリスクを正しく理解し、現場で迅速に判断・対応できるよう研修を行うことも不可欠でしょう。
以上のように、企業が労働環境整備、労働時間管理、教育の三本柱を徹底することで、ひいては熱中症リスクを回避し、従業員の安全と健康を守ることができるのです。これは単なる義務対応にとどまらず、将来に向けて持続的な働き方改革を推進する上での重要な投資ともいえます。

賃金システム研究所🄬所長 賃金改革のプロ・プラチナ企業育成のマイスター🄬
主な著書:「新訂2版 賃金システム再構築マニュアル」、
「赤津雅彦の賃金改革キーワード」、
「伸びる組織のための人事・賃金基礎講座」等
(注)「プラチナ企業育成マイスター」は登録商標です。


