OECD(経済協力開発機構)が昨秋発表した日本のAIと労働政策についての調査分析報告書によれば、職場でのAI利用率は8.4%で調査対象の加盟8カ国中で最低水準だった。一方、障害のある労働者や家庭内で育児・介護に従事する労働者の生成AI利用率は、それ以外の労働者の2~4倍近くにのぼることも分かった。結果から何が読み取れるのか、執筆を担当した前OECD雇用労働社会問題局スキル未来課の戸田卓宏・労働市場エコノミストに聞いた。


■ 大企業より中小企業でAIによる改善効果を実感
調査は回答者の職業や性別、年齢、地域などの属性が日本全体の特徴と同様になるように無作為抽出した2.2万人の労働者に対し、2024年5~6月に労働政策研究・研修機構のウェブ調査として実施した。国際的にも比較できるよう、OECDが加盟7カ国(豪・加・仏・独・アイルランド・米・英)の金融・保険業と製造業の労働者に実施した先行調査と同じ設問を中心に据えた。
日本において、企業でAIが使用されている労働者(AI導入者)の割合は全体の12.9%、うちAI利用者は8.4%、さらに生成AI利用者は6.4%(図表1)だった。国際比較可能な金融・保険業と製造業では、8カ国中最低水準となった。

一方、障害を持つ労働者の生成AI利用率は20.1%、同じく育児従事者は11.4%、介護従事者は21.3%と、それ以外の労働者の利用率の5.3~5.5%を大幅に上回った(図表2)。

戸田さんは以下のように指摘する。
「障害を持つ労働者の個々の特性に応じた職場支援をAIが提供していると考えられます。障害者を雇用する企業の70~80%が業務プロセスにデジタル技術を導入しているとのデータもあり、例えば近年では盲導犬の役割を果たす『AIスーツケース』や、手話を画像認識するAIなども開発・実証実験が進められています。AIが障害者の支援になることが期待される分野です。一方、AIは障害者が担っている定型的な業務を代替する側面もあるので、AIを活用した新たなタスクや仕事の切り出しに繋げていくなどの工夫も、同時に必要になると考えています」
育児・介護従事者については、「決まった時間内で業務を完了させる必要性が高く、AIが業務効率化の良きパートナーとなっている可能性が考えられます。回答数は少ないものの、育児と介護のダブルケアに従事する労働者の場合、さらにAI利用率が高くなっています」と指摘する。
また、企業規模が大きくなるほどAI利用率は高まる傾向があったが、仕事のパフォーマンスや労働環境の改善効果を実感している割合は、大企業より中小企業のほうが大きかった(図表3)。

戸田さんは「人手不足が深刻な中小企業では、1人が複数の役割を担うなどマルチタスク化しがちであり、AIが良きパートナーとして業務遂行を助けている可能性が考えられる」と指摘。また、管理体制や組織的な観点に関してこう述べた。
「ヒエラルキー(階層)型の組織では、そうでない組織と比べてAIの導入が従業員にとって『押し付け』と感じられやすく、利用者がAIの効果を実感しにくいとの研究結果があります。中小企業では人的リソースが乏しい反面、複数の上司決裁など階層的な組織構造は比較的少なく、自分のタスクを最後までコントロールできる度合いがより大きいなどの要因も、中小企業での評価が高い背景と考えられます。生成AIはコストも低く、中小企業での今後の活用が期待されます」
■ 最低水準の「信頼」どう醸成するか
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