■新・働く人の心と体の心理学 第62回 著者:深沢孝之
1月1日に起きた能登半島地震はマグニチュードが7.6と7.3の阪神・淡路大震災より大きく、能登半島とその周りの地域に甚大な被害を与えています。本稿の執筆時点で死者236人になり、人口密度の低い地域にしては被害の規模はかなり大きいといわれています。私の住む山梨からも、県や市町村の職員が交代で支援に出向いています。精神科領域でも、県立病院を中心にチームが組まれて派遣され、「心のケア」に携わっています。私の後輩も先日珠洲市に行きました。通常こういうチームは、精神科医と看護師、コメディカルといわれる他の医療職(ソーシャルワーカーや心理士など)で構成されています。仕事の内容は、地元の精神保健の中核病院や行政の担当者、DPATと呼ばれる全国から集まる災害派遣精神医療チームの人たちとの話し合いで決めていきます。
私自身は、2011年の東日本大震災の時に2回参加したことがあり、それに先立つ07年の能登半島地震の時にも派遣されたことがあります。その時はマグニチュード6.9で死者1名で、今回よりかなり小さい人的被害でしたが、建物全壊686棟、半壊が1740棟というかなりの物的被害を出しました。私たちのチームは、能登半島の海岸線をなぞり書きするかのように車で動き、市町村や幼稚園を巡りました。私たちも寝袋を持参して、どこかの保健センターなどで寝た記憶があります。やはり体力的に大変なので、チームは20代から40代の若い人たちで構成されることが多いようです。ただ、臨床家としても大変貴重な機会となるので、今回参加する若き支援者たちにはがんばってほしいと思います。
このような精神的支援においては、現在「サイコロジカル・ファーストエイド」というガイドラインがWHOから示され、それに沿って実施することになっています。これは「心理的応急処置」という意味で、戦争や災害、事故などに遭遇した人たちに対して専門家だけではなく、誰もがこのガイドラインに沿って活動できるようにしたものです。専門家が行うカウンセリングとは別のものとされています。しかしこの応急処置をすることで、当事者のその後の回復が早まったり、進んだりするようになります。考え方としては以下のようなことを目指した活動です。
「実際に役立つケアや支援を提供する、ただし押し付けない」「ニーズや心配事を確認する」「生きていく上での基本的ニーズ(食料、水、情報など)を満たす手助けをする」「話をする、ただし話すことを無理強いしない」「安心させ、心を落ち着けるよう手助けする」「その人が情報やサービス、社会的支援を得るために手助けする」「それ以上の危害を受けないよう守る」。
今回もこれらのことを頭に入れて、被災者に関わることが大切です。
■心の安全にインフラ整備は不可欠
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