金曜日, 11月 22, 2024
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【ゆく年 くる年】大阪万博 建設遅れと働き方改革 正倉院文書を見ながらいまを考えた(山本圭子)

山本圭子(やまもとけいこ) 法政大学法学部講師。著書に『ファーストステップ労働法』(エイデル研究所、2020年、共著)など。

■自粛が終わった

コロナ禍では出張も少なく旅行も自粛していたが、2023年は学会出張やゼミ合宿も行くことができた。学生も、休みを利用して国内外への旅行に出かけている。円安の影響もあり、インバウンドの来日外国人は、コロナ前の数値に戻っているらしい。

会議が一つ延期になったのを幸いと、出先から奈良国立博物館の正倉院展に足を運んだ。新横浜の新幹線の駅ホーム上の売店がいくつか休業していて、開いている売店には長蛇の列ができていた。東海道新幹線内の車内販売がなくなったのも行列の一因だろう。販売員の確保が難しくなったとのこと。グリーン車ではモバイルオーダーで飲料やお菓子を買えるらしい。

5年ぶりに降りた京都駅は、コロナ前と同様に大変な混雑ぶりだった。行く先々で書店をのぞくのだが、新幹線ホーム下の書店が閉店していてがっかりした。スマートフォンが普及して、車中で雑誌や本を読む客が少なくなっただろう。ただし改札外の老舗書店は健在で、さすが文化都市京都という品揃えで安心した。

新幹線も私鉄も指定券をスマートフォンで購入でき、鉄道系ICカードでチケットレスで乗れるのは有り難い。近鉄奈良駅では、「せんとくん」と並んで、2025年の大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」のポスターが出迎えていた。関東で暮らしていると万博まであと○○○日といわれても全く実感が沸かないが(NHKの世論調査でも7割は「関心がない」という)、万博は関西経済圏にはすでに恩恵をもたらしているのかも知れない。

久しぶりの奈良の街は、軽井沢や谷根千といった観光地にありそうな飲食店やホテルが増えていた。洒落たカフェは、開店から客が行列している。アルバイトの店員たちも外国人客には英語のメニューを渡しながら、英語で接客しているので感心した。奈良公園のバスターミナルもきれいに整備されていて、万博に向けて準備万端に見える。

■正倉院文書と工期

正倉院展は、スマートフォンでチケット購入してQRコードで表示して入館することもできるのだが、入館直前にスマホ表示ができなくなり、あわててあらかじめプリントアウトしておいたQRコードでなんとか入れた。

展覧会のポスターに載っている琵琶、螺鈿装飾の鏡、スッポンの物入れといった工芸品の展示の前は人だかりができている。それを抜けた出口近くに、『正倉院文書』のコーナーがあった。

正倉院文書とは、東大寺の写経・造寺・造仏事業に関する史料のほか、写経文書等の紙裏に書かれた戸籍・計帳などを含む、日本古代史の基本史料だという。その展示のなかに、自分の故郷の常陸国戸籍が展示されていた。あの時代に、既に関東の民まで戸籍で管理して徴税していたのかと驚く。ボロボロになっていた文書をジグソーパズルのように組み合わせ、薄れた墨を読み取る手法も紹介されていた。

2023年は、東大寺初代別当(住職)をつとめた良弁の1250年御遠忌にあたるとして、良弁自ら署名した文書を含む「正倉院古文書正集第七巻」も展示されていた。滋賀県石山寺は聖武天皇の勅願により、良弁僧正が建てた寺院だという。そのなかには、寺の建立にあたっての記録は、当時の建設の詳細を知る上では重要な史料だという。

この文書では、石山寺の建立にあたって、金が足りない、資材が足りない、職人に逃げられた、追加の人員を送れ、米が足りずに作業が止まった、対策を講じてもらわないと工期に間に合わないと嘆く切実な記載がある。その解説文を読みながら、今まさに行われている万博会場の工事のことを思い出して、今も昔もたいして変わらないものだとおかしくなった。

■働き方改革と万博

万博は、当初予算から大幅な増額が必要となり、総経費はいまだ不透明だという。資材や人件費の高騰、人手不足で、建設が開会に間に合うかどうかの瀬戸際らしい。既に、独自のパビリオンの建設を諦める国もでてきたり、入札が整わないともきく。

2019年4月の働き方改革関連法の施行の際に、建設業(工作物の建設の事業)は、長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題があることから、罰則付の時間外労働の上限規制の適用を5年猶予されていた(労基法139条)。5年の猶予は2024年3月で終了し、4月からは、原則として上限は月45時間、年360時間とされ、臨時的な特別の事情があって特別条項付36協定を結ばなければ、これを超えることはできない。特別条項付36協定でも、時間外労働が年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均80時間以内、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回が限度となる。ただし、2024年4月以降も、建設業については、災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、①1カ月100時間未満、②2カ月ないし6カ月平均80時間以内という規制は適用されない。

また、労基法33条1項の「災害その他避けることのできない事由によって、臨時的に必要がある場合」については、労基法36条および139条の規制の対象とならない。これは、業務運営上通常予見し得ない災害等が発生した場合が対象であり、時間外労働の上限規制からは除外される。

厚生労働省のホームページの「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A」では、33条1項該当の例として、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法の適用を受ける災害復旧事業(関連事業等を含む)、国や地方自治体と締結した災害協定に基づく災害の復旧の事業、維持管理契約内で発注者の指示により対応する災害の復旧の事業、災害により社会生活への重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合があげられている。

他方、同Q&Aでは、「法第33条第1項は、事業の発注者が国や地方自治体であることをもって一律に対象となるものではない。個別具体的な事由の性質が『災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合』という要件に当たれば対象となる」とする。

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