本当に人が採れない――深刻な人手不足が加速するなかで、「ありがとう」の言葉をキーワードに働く魅力を応募者に伝え、着実な採用に結びつけている事業所がある。日本老人福祉財団(東京都中央区、従業員数1158人)が運営する介護付き有料老人ホーム「大阪〈ゆうゆうの里〉」の井尻隆夫施設長は、「『ありがとう』の言葉は介護の現場に溢れている。職員と入居者との関わり合いのなかで交わされ、そこに介護福祉で働く魅力が表れている」と力を込める。

■賞与加点制度で評価
関東・東海・関西地域で7カ所の介護付き有料老人ホームを運営する同財団では、設立50周年の節目に人事制度を大きく改定。その一環として2024年4月に導入したのが、職員が入居者や同僚とお互いに「ありがとう」と感謝し合えるエピソードの報告を、賞与支給に加点するバリュー評価制度だ(図)。

人事総務部課長として当時制度構築に携わった井尻さんは、「入居者からの『ありがとう』の言葉は職員の日々の励みになっていますが、組織で共有されることは少ない。職員自身が『こちらこそありがとうございます』と感謝し合えるような関係性の深まりをその場限りにせず、上司が職員と入居者との関わりを知り、褒める機会にも繋げてほしいので評価制度を導入しました」と振り返る。
実際に初めての加点支給となった24年12月の賞与時には、職員から約400件のエピソードが寄せられ、うち70件は特に評価の高い特別加点とされた。その一部を表題のみ表に抜粋している。

(各話の全文をこちらに掲載)。
90歳の全盲の入居者から「この鞄は世界に2つとない、私の妻が作った物です。何とか直せませんか?」と肩紐のちぎれかけた皮鞄の修理を託され、想いを叶えるために納得のいく革職人探しに四苦八苦するエピソードや、臥床(ベッドに横たえる)介助に恐怖心の強い入居者へ、目を合わせた声掛けと丁寧な措置でスムーズに移乗し、満面の笑みで労われたエピソードなど――。
「評価制度がなければ日常の一コマとして埋もれてしまう出来事かもしれないが、そこには入居者との信頼関係の深まりが見てとれる」と井尻さんは指摘し、こう続ける。
「『ありがとう』は単純な言葉ですが、介護福祉の現場で働く魅力が表れている。採用面でも、例えば合同企業説明会で制度の内容を紹介すると、Z世代など若年層が敏感に反応するなど手応えを感じています」
■説明会から2人入職
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