労働基準関係法制研究会は昨年末に、労働基準法などの次期改正の方向性をまとめた報告書案を大筋で了承した。労働時間法制の見直しの議論では、「13日超の連続勤務の禁止」「勤務間インターバルの義務化」「副業・兼業時の割増賃金の通算不要」が注目されがちだが、働き方の観点でみれば「テレワーク時のみなし労働時間制の新設」の影響力こそが見逃せない。
在宅勤務などのテレワークについては柔軟に働くことができ、ワークライフバランスにも資するとして、労働者の希望に応じて促進すべきというのが研究会のスタンス。ただ裁量労働制や事業場外みなし労働時間制といった既存の制度は適用しにくいという問題意識の下、健康に配慮した新たな柔軟な働き方を提案するに至っている。
白羽の矢を立てたのは、フレックスタイム制と新たなみなし労働時間制。まずフレックス制については、テレワーク勤務日と通常勤務日が混在した場合でも活用できるように、部分フレックス制の導入を示唆。対象はテレワークに限定せず、特定の日は就業規則などに定めた始業・終業時刻通り出退勤することを可能とするよう改善を求めた。
一方、新たなみなし労働時間制は改善後のフレックス制の導入を前提にし、実効的な健康確保措置を設けた上で在宅勤務に限定した制度として創設。改善後のフレックス制の整備のほか、集団的合意と個別の本人同意を導入要件に課す。制度適用後も、本人同意の撤回によって改善後のフレックス制に戻ることを想定して制度設計する考えだ。
もちろん、長時間労働という副作用を防止するため、健康確保には万全を期す。高度プロフェッショナル制度と同様に、健康管理時間の客観的な把握、健康状況の確認を義務化。健康状態に問題が生じた場合には、医師の面接や勤務間インターバルといった健康確保措置の実施、改善後のフレックス制に強制的に戻るルートの整備が考えられる。
研究会報告書では、新制度を回しながら実態やニーズを汲んでさらなる改善に繋げる趣旨を明記。制度実現の可能性は今後の労働政策審議会の審議次第だが、見切り発車的なニュアンスだけに法の潜脱に懸念が残る。
在宅勤務みなしが新設されると、実労働時間に縛られない働き方が可能になる一方、みなし労働時間を法定の8時間以内に収めようとする動機が強まりかねない。残業代削減目当ての在宅勤務みなし誘導を防ぐ対策に関して、研究会の議論で年収要件の設定など実体法上の規制を求める声は上がっていない。