日本IBM(東京都港区)が賃金査定のために導入した人工知能(AI)について、判断の基準となるデータや評価理由が不透明で社員への誠実な説明をしていないとして、東京都労働委員会に救済を申立てていた労働組合がこのほど、同社側と和解が成立したと発表した。AI査定で考慮される全項目の開示や賃金評価との関連性の説明などの内容(表)。労組側の弁護士は「賃金査定でAIにどのようなデータを学習させ、そのアウトプットをどう使うかについて検証し、必要であれば不服を申し立てられる透明性あるルールづくりが求められている」と指摘している。
日本金属製造情報通信労働組合日本アイビーエム支部の申立書などによれば、同社は2019年8月、給与改定に反映する人事評価の判断に、自社開発したAI「ワトソン」を導入したと社内に発表。労組側は、AIに考慮させる項目や、AIが上司に提案する内容の開示などを求めたが拒まれたため、同社の対応が労働組合法7条が禁じる不誠実団体交渉などに当たるとして、2020年4月に東京都労働委員会に救済を申立てていた。
労組側の代理人を務める穂積匡史弁護士は、企業における昇進・昇給など人事評価や人員配置の判断にAIの活用が広がっている点に関して、「労使間の合意に基づいて労働条件を決めるという労働法の根幹が大きく揺らいでいる」と指摘。その上で、「賃金査定や人事評価などでAIを活用している場合には、どのようなデータをどう活用するか、労使間でチェックできる透明性あるルールづくりが求められる。人生の重要な決定を自らの意思で決める自己決定権、幸福追求権の観点からも重要でしょう」と述べた。
日本IBMは和解について、「時間はかかったが、当社のAIに対する考え方が理解された結果、円満解決ができた」とコメント。「IBMはAIに対して信頼と透明性を原則とする価値観を持っており、責任あるAIを支援している」と述べた。