火曜日, 11月 5, 2024

問われる兵庫県知事の公益通報“保護対象外”判断(大渕愛子弁護士)

■組織を発展させる内部通報窓口のつくり方⑤

兵庫県知事のパワハラの疑いなどを告発する文書を巡り、県議会の百条委員会にて証人尋問が実施され、その内容が多くのメディアにおいて報道されています。知事は、当該告発には真実相当性が認められず、公益通報として保護されないため、「作成した人を特定し、聴取するのは問題ない」旨を供述しました。一方、参考人招致された上智大学の奥山俊宏教授は、「告発文書には法的に保護されるべき公益通報が含まれていた」として、県が告発文書を作成した元局長を懲戒処分にした対応について、「公益通報保護法に違反する」との見解を示しました。

ここで問題となるのは、公益通報として保護されるための要件です。まず、通報対象事実は、公益通報者保護法の別表に定める法律において刑事罰もしくは行政罰の対象となる行為又は最終的に刑事罰もしくは行政罰につながる法令違反行為になります。別表に定められた法律は、消費者庁のホームページに掲載されていますが、2024年4月時点において500本あります。

次に、報道機関等への通報(いわゆる「3号通報」)については、通報対象事実が生じていると信ずるに足りる相当の理由が必要とされています。つまり、通報対象事実を裏付ける資料や供述などの相当の根拠が必要ということです。兵庫県知事としては、元局長の告発はこの要件を欠いていたということを言いたいようです。

しかし、そもそも告発をする側にとっては、通報対象事実への該当性を判断することも難しい上、真実相当性なしなどという理由で安易に保護しないという判断がなされうるのであれば、恐ろしくてとても通報することなどできないでしょう。3号通報には、さらに法律所定の要件がプラスαとして求められており、複雑です。

公益通報として保護されるための要件のハードルが高いことも改善の余地がありますし、事業者側が恣意的な運用をしないよう対策を講ずる必要もあります。

■不利益取扱い罰則化も

本年5月7日に初会合が開かれた「公益通報者保護制度検討会」では、たとえば、公益通報対応業務従事者の守秘義務違反のみならず、事業者による不利益取扱いに対しても刑事罰を科すべきではないかという点や、公益通報と不利益取扱いとの間の因果関係についての立証責任を事業者側に転換すべきではないかという点などが提案されており、要注目です。

自社の内部通報窓口が機能しているのかどうか、通報がなされたときに適切に対応できるのかどうか。明日は我が身だと危機感を高め、1日も早く現状の把握、問題点の洗い出しに着手することが今求められています。


大渕愛子(おおぶち・あいこ)アムール法律事務所代表弁護士
2001年弁護士登録(東京弁護士会所属)。糸賀法律事務所にて企業法務の経験を積み、2010年独立。内部通報制度などの企業制度構築に関する講演・講義多数。

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