人的資本の考え方は、人材を資本と捉えてその価値を最大限に引き出すことに意義があります。この考え方を実践することを人的資本経営と呼び、世界的な動きが見られます。人的資本に適切な投資が行われますと、今後、従業員の働き方も変わるでしょう。
我が国では、いわゆる「無形資産」ともいえる従業員の持つ技術や能力などの人的資産は、基本的には人件費(費用)として処理され、資産計上されませんが、例えば国際標準化機構(International Standard Organization)のマネジメントシステム規格、ISO 30414では、2018年にすでに従業員業員に関する人的資本の情報について、定量化し、分析し、開示するための国際的な指標としてのガイドラインができています。
日本では、人的資本の開示を積極的に行っている企業は多くありません。しかし、世界のトレンドは、確実に開示を歓迎する方向に向かっています。2020年8月には、米証券取引委員会(SEC)が、上場企業の人的資本に関する情報公開を義務化しました。日本ではまだ始まったばかりです。
ISO30414:2018では、11項目と58指標で構成される人的資本のガイドラインが示されています。ちなみに、大企業のみならず、中小企業も開示が望まれる項目は、コンプライアンス・倫理研修を受けた従業員の割合、総労働力コスト、労災の件数(発生率)、労災による死亡者数(死亡率)、従業員1人あたりの利息及び税金控除前利益/売上/利益、人的資本投資収益率、人材開発・研修の総費用、総従業員数、総従業員数(フル/パートタイム)、フルタイム換算など9指標です。
これらの他に、大企業が開示を行うことを推奨する指標としては、提起された苦情の種類と件数、懲戒処分の種類と件数、年齢、 性別、 障害者の多様性、経営陣の多様性、リーダーシップに対する信頼、労災により失われた時間、採用にかかる平均日数、重要ポストが埋まるまでの時間、内部登用率、 重要ポストの内部登用率など13指標です。
今後は、日本でも(1)コンプライアンスと倫理、(2)コスト、(3)多様性、(4)リーダーシップ、(5)組織文化、(6)組織の健康・安全・福祉、(7)生産性、(8)採用・異動・離職、(9)スキルと能力、(10)後継者育成、(11)従業員の可用性等の11項目に関する58の指標を開示することになるでしょう。なぜなら、より魅力的な企業として世間に認知されるには、人的資本の開示が必要だからです。