メンタル不調の社員が、焦らず回復して再び働き続けるために、職場や会社には何が求められるのか。ITコンサルティングやシステム開発を手掛ける日本コムシンク(大阪市、従業員数234人)では、10年以上に及ぶ職場の理解醸成や支援の取組みにより、メンタル不調による休職者の74%が復職し、その後の定着につながっているという。人事や総務、財務などを統括する米坂安代バリューアップセンター長は「1人のエンジニアの育成には多くの時間がかかる。たとえ労力がかかっても、復職してもらったほうが本人はもちろん会社にとってもプラス」と力を込める。
■「しんどい」口にできる 職場理解へ衛生委員会も
「社員の多くがIT技術者(エンジニア)で、業界的にもメンタル不調の割合は高い」と米坂さんは指摘する。厚生労働省の2022年労働安全衛生調査によれば、過去1年でメンタル不調による1カ月以上の休職者または退職者が「いた」割合は、全産業平均で13.3%に対して情報通信業は36.3%と3倍近くに上る。
「システムの不具合を事前に予測して設計に盛り込む、といった業務内容の特性が影響している部分もあるかもしれません」と米坂さん。業界全体の課題に対し、同社が長年力を入れている一つが復職支援だ。同社の2001年以降の休職者に占める復職者の割合(復職率)は、累計で約74%。労働政策研究・研修機構(JILPT)の2013年の調査によれば、メンタル不調者の復職率は全産業平均で42.3%で、同社は平均より30㌽以上高い。
復職しやすい職場づくりの背景には何があるのか。
「復職支援プログラムをつくったのが2011年です。まず会社として復職可能と判断する基準を示し、上司や職場の役割分担を明確にしました。翌12年からは、休職になる前の段階で本人や周囲が不調に気づくための周知活動を、全社的に進めました」
実際に当時社内周知に使用した資料(図表)を見ると、メンタル不調をことさら特別視せずに見守る職場の理解や、長期的な視点で復職を支えるラインケアがポイントであることが分かる。
「上司との面談でもメンタルの話題は『評価を下げられるのでは』と口にしづらいものです。取組みを何年も継続するなかで、『今ちょっとメンタルしんどいんです』などと口にできる雰囲気がやっとできてきました。職場全体を通じた取組みが大事です」
全社的な周知活動などは衛生委員会で継続的に取組み、休職者の復職については機微情報なども扱うため、復職判定委員会で対応を進める体制としている。メンタル不調への対策に取り組むなかで、36協定の残業上限時間見直しなど、性別を問わず長時間労働の削減を進め、16年には大阪市の「女性活躍リーディングカンパニー」に選出。20年以降は5年連続で経済産業省の「健康経営優良法人」に認定されている。
■リワーク施設とも協働 相談は社内外の窓口で
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