■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
本紙の昨年8月25日号で、「EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議」について書きましたが、その後第2次協議を経て、去る3月20日に、欧州委員会は「研修生の労働条件の改善強化及び研修を偽装した正規雇用関係と戦う指令案」(「研修生(偽装研修対策)指令案」)を提案しました。今回はこの指令案の内容を紹介したいと思います。なお、今回からトレーニーを研修生、トレーニーシップを研修と呼ぶことにします。日本でも研修生だから雇用に非ずという偽装問題が存在するので、問題の共通性を明確にするためにも、その方がわかりやすいと思うからです。
研修生をめぐる問題状況については、上記昨年8月の記事でも解説しましたが、スキルがないゆえに就職できない若者を、労働者としてではなく研修生として採用し、実際に企業の中の仕事を経験させて、その仕事の実際上のスキルを身につけさせることによって、卒業証書という社会的通用力ある職業資格はなくても企業に労働者として採用してもらえるようにしていく、という面では、雇用政策の重要な役割を担っていることも確かなのですが、一方で、研修生という名目で仕事をさせながら、労働者ではないからといってまともな賃金を払わずに済ませるための抜け道として使われているのではないかという批判が、繰り返しされてきています。
そこで、EUでは2014年に「研修の上質枠組みに関する理事会勧告」という法的拘束力のない規範が制定され、研修の始期に研修生と研修提供者との間で締結された書面による研修協定が締結されること、同協定には、教育目的、労働条件、研修生に手当ないし報酬が支払われるか否か、両当事者の権利義務、研修期間が明示されること、そして命じられた作業を通じて研修生を指導し、その進捗を監視評価する監督者を研修提供者が指名すること、が求められています。
また労働条件についても、週労働時間の上限、1日及び1週の休息期間の下限、最低休日など研修生の権利と労働条件の確保。安全衛生や病気休暇の確保。そして、研修協定に手当や報酬が支払われるか否か、支払われるとしたらその金額を明示することが求められ、また研修期間が原則として6カ月を超えないこと。さらに研修期間中に獲得した知識、技能、能力の承認と確認を促進し、研修提供者がその評価を基礎に、資格証明書によりそれを証明することを奨励することが規定されています。とはいえこれは法的拘束力のない勧告なので、実際には数年間にわたり研修生だといってごくわずかな手当を払うだけで便利に使い続ける企業が跡を絶ちません。
これに対し、2023年6月14日に欧州議会がEUにおける研修に関する決議を採択し、その中で欧州委員会に対して、研修生に対して十分な報酬を支払うこと、労働者性の判断基準に該当する限り労働者として扱うべきことを定める指令案を提出するように求めました。これを受ける形で、同年7月11日に、欧州委員会は「研修の更なる質向上」に関する労使団体への第1次協議を開始しました。その内容は昨年8月の本連載記事で紹介した通りですが、その後同年9月28日には第2次協議に進み、法的拘束力ある指令という手段を用いるべきではないかと提起しました。そして今回、指令案の提案に至ったわけです。
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