金曜日, 5月 3, 2024

EUトレーニーシップに関する労使への第1次協議(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

ジョブ型雇用社会では、募集とはすべて具体的なポストの欠員募集であり、企業があるジョブについてそのジョブを遂行するスキルを有する者に応募を呼びかける行動であり、応募とはそのポストに就いたら直ちにその任務を遂行できると称する者が、それ故に自分を是非採用してくれるように企業に求める行動です。その際、その者が当該ジョブを的確に遂行できるかどうかを判断する上では、社会的に通用性が認められている職業資格や、当該募集ポストで必要なスキルを発揮してきたと推定できるような職業経歴を提示することが最も説得力ある材料となります。そうすると、学校を卒業したばかりの若者は職業経歴がないのですから、卒業したばかりの学校が発行してくれた卒業証書(ディプロマ)こそが、最も有効な就職のためのパスポートになります。しかしながら、すべての学校の卒業証書がその卒業生の職業スキルを証明してくれるわけではありません。そうすると、自分の職業スキルを証明してくれる材料を持たない若者は、つらく苦しい「学校から仕事への移行」の時期を過ごさなければなりません。

という話は、これまで様々なところで喋ったり書いたりしてきたことですが、その「移行」のための装置としてかなりのヨーロッパ諸国で広がってきているのがトレーニーシップ(訓練生制度)です。スキルがないゆえに就職できない若者を、労働者としてではなく訓練生として採用し、実際に企業の中の仕事を経験させて、その仕事の実際上のスキルを身につけさせることによって、卒業証書という社会的通用力ある職業資格はなくても企業に労働者として採用してもらえるようにしていく、という説明を聞くと、大変立派な仕組みのように聞こえますが、実態は必ずしもそういう美談めいた話ばかりではありません。むしろ、訓練生という名目で仕事をさせながら、労働者ではないからといってまともな賃金を払わずに済ませるための抜け道として使われているのではないかという批判が、繰り返しされてきているのです。

とはいえ、ジョブ型社会のヨーロッパでは、訓練生であろうが企業の中で仕事をやらせているんだから労働者として扱えという議論が素直に通らない理由があります。最初に言ったように、労働者として採用するということはそのジョブを遂行するスキルがあると判断したからなのであって、そのスキルがないと分かっている者を採用するというのは、そのスキルがある応募者からすればとんでもない不正義になるからです。スキルがない者を採用していいのは、スキルを要さない単純労働だけです。そして、単純労働に採用されるということは、ほっとくといつまで経ってもそこから抜け出せないということを意味します。ジョブ型社会というのは、本当に硬直的でしちめんどくさい社会なのです。

スキルがない者であるにもかかわらず、スキルを要するジョブの作業をやらせることができるのは、それが教育目的であるからです。労働者ではなく訓練生であるという仮面をかぶることで、スキルのない(=職業資格を持たない)者がスキルを要するジョブのポストに就くことができるのである以上、この欺瞞に満ちたトレーニーシップという仕組みをやめることは難しいのです。

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