木曜日, 11月 21, 2024

EUプラットフォーム労働指令案は成立に向けて大きく前進(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

去る3月10日、学習院大学法学部の橋本陽子さんが『労働法はフリーランスを守れるか-これからの雇用社会を考える』(ちくま新書)を刊行されました。今年秋施行予定のフリーランス新法(特定受託者取引適正化法)の制定を機に、個人事業主と労働法の関係を包括的に検討した名著で、欧米の動向についても詳しく解説しています。その中で、2021年12月に提案されたEUのプラットフォーム労働指令案についてもごく最近の動きまでフォローされ、「同指令案は、2023年3月のEU議会、同年6月の理事会の審議を経て、採択されることとなった。2023年12月13日には、EU議会、理事会および委員会との三者協議で暫定的な合意が成立し、いよいよ指令の成立が間近に迫ってきた」(171ページ)と書かれています。ところが、橋本さんがこう書いて筆を措いたその次の瞬間に事態は大きく反転し、同指令案は当分成立の見込みが立たない状態になってしまいました。そして約3か月の紆余曲折を経て、つい先日の2024年3月11日に理事会は合意に達し、同指令案は成立に向けて大きく前進することになりました。

本指令案については、「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」(2021年3月25日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案」(2022年1月5日号)、「EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意」(2023年7月25日号)と、本紙で繰り返し取り上げてきましたが、2021年12月9日に、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」が行政府たる欧州委員会から提案され、立法府である閣僚理事会と欧州議会で審議が進められてきました。そして、昨年2023年12月13日に、両者は合意に達したと、それぞれが発表するに至りました。これで、ほぼ2年越しの懸案は遂に決着したと、ほとんどすべての人が思ったでしょう。わたしもそう思ったので、翌日早速拙ブログにその旨を書きました。ところが、そう簡単に問屋は荷物を卸してくれなかったのです。

欧州委員会の指令案については既に何回か詳しく解説してきましたが、大きく二つの部分からなります。一つ目のより注目を集めたのは、プラットフォーム労働者の労働者性の推定規定です。即ち、プラットフォームを通じて就労する者が次の5要件のうち2つを満たす場合、雇用関係であるとの法的推定を受けます。

①報酬の水準を有効に決定し、又はその上限を設定していること、
②プラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の拘束力ある規則を尊重するよう要求すること、
③電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督し、又は労働の結果の質を確認すること、
④制裁を通じても含め、労働を編成する自由、とりわけ労働時間や休業期間を決定したり、課業を受諾するか拒否するか、再受託者や代替者を使うかといった裁量の余地を有効に制限していること、
⑤顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を、有効に制限していること。

プラットフォームの側が労働者ではないという反証を挙げることは可能ですが、立証責任は労働者側ではなくプラットフォーム側にあります。通常労働者性をめぐる紛争では立証責任は労働者側にありますが、それを転換しているわけです。これは、プラットフォーム就労者が雇用労働者ではないことを前提に組み立てられてきたビジネスモデルを根本からひっくり返すものなので、ウーバー始めとするプラットフォーム企業は猛烈なロビイング攻勢をかけていると報じられてきました。もう一つの論点は、プラットフォームが使っているアルゴリズム管理について、透明性や公正性を要求する規定で、これは別に進められているAI規制の一部がここに顔を出しているという面があります。

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