金曜日, 11月 22, 2024

EUのプラットフォーム労働指令案に理事会合意(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

去る6月12日、EUの労働社会相理事会で、プラットフォーム労働指令案について、議長国スウェーデンの妥協案に合意が成立しました。27か国中22か国の賛成多数で、エストニア、ドイツ、ギリシャ、ラトビア、スペインの5か国が棄権しただけでした。本指令案については、本紙2022年1月5日号でかなり詳細な紹介をしたところですが、2021年12月9日に欧州委員会が指令案を提案してからほぼ1年半で、EUの2つの立法機関のうちの1つがゴーサインを出したことになります。今後、もう一つの立法機関である欧州議会との間で、提案者の欧州委員会も含めて協議が行われていくことになります。

今回の合意されたテキスト(「一般的アプローチ」)は、元の欧州委員会提案に比べるといくつか修正されています。どこがどのように修正されたのかをざっと見ていきましょう。

まず、第2a条として、仲介業者を利用したからといってプラットフォーム労働遂行者の保護が縮減されることのないようにせよという規定が挿入されています。仲介業者とは下請も含めてプラットフォーム労働遂行者やデジタル労働プラットフォームとの契約関係を成立させる個人又は法人を指します。この規定を設けた理由は前文第18aにあり、プラットフォーム労働遂行者がデジタル労働プラットフォームと直接契約関係を持たず、仲介業者を介しているケースが見られ、その場合三者間関係のために責任の所在が曖昧になりがちだが、雇用上の地位や自動的意思決定などのリスクには同じように曝されるので、共同責任を含む適切な措置をとるべきだとされています。

本指令案の最大の目玉商品はもちろん雇用関係の法的推定規定(第4条)ですが、原案の5要件のうち2つ満たせば雇用関係を推定するというのが、7要件のうち3つ満たせば推定するという風になっています。もっとも、新たな要件が加わったわけではなく、原案の第d号が3つに分かれただけです。

(a)デジタル労働プラットフォームが報酬の水準の上限を設定していること、
(b)デジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の規則を尊重するよう要求すること、
(c)デジタル労働プラットフォームが、電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督すること、
(d)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、労働時間や休業期間を選択する裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(da)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、課業を受諾するか拒否するかの裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(db)デジタル労働プラットフォームが、制裁を通じても含め、再受託者や代替者を使うかの裁量を制限することによって、自らの労働を編成する自由を制限していること、
(e)デジタル労働プラットフォームが、顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を制限していること。

こうした労働者性の判断基準は日本でも違和感のないものですが、7つのうち3つで労働者判定というのは、原案の5つのうち2つで労働者判定に比べて、やや厳格になったといえるかも知れません。

一方、本条では原案の第2項以下がすべて削除され、代って第1a項として、本条が雇用関係の存否の確認に関する国内裁判所及び行政当局の裁量権に影響しないという規定が盛り込まれており、実質的にかなりの骨抜きが可能になっています。第4a条では、この法的推定が行政及び司法手続に適用されると原則を述べた上で、税制、刑事及び社会保障の手続に適用されないこと、さらに権限ある国内行政機関が自発的に法遵守を確認するような場合には法的推定を適用しないことができるとしています。こういった点に関して、ベルギー、オランダ、スペインなど8か国は批判する共同声明を発しています。一方、フランスは雇用の安易な法的推定に極めて否定的な声明を発しています。フランスは司法府の破毀院は労働者性の認定に積極的ですが、行政府は自営業者を自営業者として保護するという政策を追求しているようです。

本指令案のもう一つの柱であるアルゴリズム規制はより強化されています。第3章の章題も「アルゴリズム管理」から「自動的なモニタリング又は意思決定システムによる管理」となり、原案はまず雇用関係を有するプラットフォーム労働者について規定をした上で、それを雇用関係のないプラットフォーム労働遂行者にも適用していた(旧第10条)のを、はじめからすべてのプラットフォーム労働遂行者に適用される形で規定し直しています。また、両概念については、第2条に定義規定を置き、「自動的モニタリングシステム」は「電子的な手段によりプラットフォーム労働遂行者の個人データを収集し、その労働遂行を監督又は評価するために用いられるシステム」と、「自動的な意思決定システム」とは「とりわけ課業の提供又は割当、報酬、労働安全衛生、労働時間、訓練機会及び契約上の地位(アカウントの制限、停止、解除を含む)においてプラットフォーム労働遂行者に重大な影響を与える意思決定をしたり支援するのに用いられるシステム」と定義されています。

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