長期化する人手不足のなかで迎えた春季労使交渉では、「5%以上を目安」とする連合の賃上げ目標に対し、経団連が「物価上昇に負けない賃上げが企業の社会的責務」と呼びかけるなど、労使の認識が一致する異例の展開となった。一方、中小企業にとっては人材採用のためにも賃上げが求められるが、「原資がない」との切実な声も強い。カギを握る労務費の価格転嫁による取引環境の改善について、政府は重点業種をあげて対策に乗り出す構えだ。労使の動きを追う。
■中小の6割超が「防衛的な賃上げ」
四半期ごとに実施する労働経済動向調査によれば、最新の昨年11月期の労働者過不足判断DIは、正社員で+46㌽と50期連続の不足超過。特に「建設」(+60㌽)、「運輸」(+59㌽)、「医療・福祉」(+57㌽)などで深刻となっている。
中小企業の景況感を調べる商工会議所LOBO調査の12月結果によれば、2023年度に所定内賃金の引き上げを行った企業は64.4%と前年同月比で11.8㌽増加。そのうち「業績の改善がみられないが賃上げを実施した」との防衛的な賃上げ割合は62.9%と、業績改善による前向きな賃上げの37.1%を大きく上回った。
賃上げの主な理由(複数回答)を尋ねると、最多は「人材確保・定着やモチベーション向上」で83.6%だった。以降、「物価上昇」44.9%、「最低賃金の引き上げ」39.2%、「初任給や非正規社員の昇給」17.6%と続き、「一定の価格転嫁が行えた」との理由は13.7%にとどまった。価格転嫁によって採用育成に向けた賃上げ原資が確保できる企業は、ごく一部に限られる現状が窺える。
この点について、経団連の十倉雅和会長は1月24日に開いた労使フォーラムで、「価格転嫁や価格アップに対するネガティブな意識を社会全体で変えていく必要がある」と指摘。同じく経団連の藤原清明専務理事は「具体的には、原材料費やエネルギー価格だけでなく、運送費に加え労務費・人件費の増加分を人への投資として価格転嫁することが重要」と述べた。
公正取引委員会(公取委)を中心に、政府の動きも注目される。内閣官房と公取委は11月末、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表。発注者向けに6つ、受注者向けに4つ、発注・受注者双方に2つ、計12の求められる具体的な行動を示し、見積もり書のひな型も明示して適切な価格交渉を求めた。
年が明けて1月22日に行われた政労使会議では、岸田文雄首相が中小企業の賃上げに関し、「労務費の価格転嫁を通じ賃上げ原資を確保することが鍵」と指摘。1873の業界団体に指針の徹底と取組状況のフォローアップを要請するとともに、特に対応が必要な22業種をあげ、転嫁状況の調査・改善を求めた(表)。22の業種ごとに、各所管官庁からの説明・調査をはじめ具体的対応も公表している。
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