福祉用具レンタル、リネンサプライのヤマシタ(静岡県島田市)は来年4月から、賃金に一定時間分の残業代を見込んで支給するみなし残業制度(固定残業代制度)を原則廃止することを決めた。現行のみなし残業手当分の全額を本給に組み込む形で実質的に賃上げし、同時に業務改善で生産性を高めることで残業を前提としない働き方を打ち出す狙い。従業員の「仕事のやりがい(EX)」を核に据えた新人事制度の一環という。人財本部の山下幸彦本部長と菅原聡副本部長に詳しく聞いた。
■効率的な働き方へ本気のメッセージ
制度の対象は正社員と契約社員で、全従業員の約7割弱。現行のみなし残業時間数は等級ごとに定められ、例えば管理職以外を4つに区分した「P1」等級では月20時間、以降「P2」で月30時間、「P3」で月40時間などとなっている。各時間数に達するまでは固定のみなし残業手当が設定され、超過した場合に超過分の時間外勤務手当を支給する形だ(図1の左側)。
新制度では、みなし残業手当分を全額本給に上乗せした上で、超過勤務時間数に応じて時間外勤務手当を支給する(図1の右側)。2024年度は最も対象者数の多いP1等級に適用し、段階的に26年までに全等級に導入。例外として、リネンサプライ事業に従事するドライバーにはみなし残業制度を残す方針だ。
同社の正社員の月当たり平均残業時間は25.7時間。現状の残業時間数のままとして計算すると、24~26年度の累計で約6.6億円の人件費増が見込まれる。生産性向上による残業時間の削減が経営的にも大きな課題となる一方、本給の賃上げとしても少なくない投資だ。菅原副本部長はその狙いをこう話す。
「介護業界は人手不足が特に深刻。2040年には約69万人もの介護人材が不足すると予測されています。業界の魅力向上のためにも、ワークライフバランスを高めながら賃金を上げていく仕組みが必須です。例えばDXで業務を圧縮した分、利用者さんへの対応時間を増やし、提供する価値の質を高めるのもその一つでしょう」
同社では22年7月に電子サインシステムを導入し、福祉用具レンタル・販売契約時の署名捺印など事務負担を削減。全社の作業総時間で同年8~12月の月間平均1100時間の削減に結び付けた。新規事業面では、例えばAI開発会社と協働し、AI技術と福祉用具を組み合わせた利用者の転倒リスクを低減する歩行改善アプリの開発に向け、4万人超の歩行解析データの取得を進めていることなども一例だ。
今後目指す働き方にとって、みなし残業制度撤廃は従業員への重要なメッセージになると、山下本部長はこう力を込める。
「社員としてはどうしても、『みなし分は残業代が出ないけど働けってことでしょ』という思いが拭えないと思う。今回撤廃に踏み切ることで、会社はより効率的な働き方を本気で社員に求めている、というメッセージになると考えています」
■制度の核「仕事のやりがい」 成長支援へAI傾聴力診断も
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