労災死傷者数トップの「転倒」をどう防ぐか、特に高年齢労働者の対策は社会課題となっている。人材派遣のヤマト・スタッフ・サプライ(東京都中央区)は2022年度、約1万人の高年齢派遣社員に自らの転倒リスクを調べる「セルフチェック」を実施。一人ひとりの身体機能別リスクを見える化し、社員の健康寿命を伸ばすために活用している。CSR戦略部の日野貴久アシスタントマネージャーに聞いた。
■身体機能リスクくっきり 実際の被災と相関
ヤマト運輸(東京都中央区)で働く定年再雇用社員の人材マネジメント会社として設立された同社は、約1万4千人の派遣社員のうち65歳以上が約1万人、その内の70歳以上は約4千人と高年齢社員が多くの割合を占める。最高齢は86歳。派遣先は主にヤマト運輸で、重量荷物の仕分けやトラックへの積み込みなど重労働も少なくない。
「トラックの荷台から足を踏み外して後頭部を打ったり、転倒した拍子に打撲骨折してしまったり、若い時は単なる転倒で済んでいたものが、入院や退職にまでつながってしまう」。日野さんは続ける。
「長年働いてきた先輩たちの仕事の終わり方としてもったいない、これで良いのかという問題意識がありました。しかし、事故を未然に防ぐためのリスク指標、『この人が働き続けても大丈夫なのか』を判断する基準がなかったんです」
そこで2022年4月から1年間をかけて、中央労働災害防止協会(中災防)などが2009年に開発した「転倒等リスク評価セルフチェック」を、約1万人の高年齢派遣社員に実施した。
この手法は、身体機能の計測により足腰の衰えを客観的に評価するとともに、転倒に関わる質問への回答から、自分が転倒しやすいことを自覚しているかの主観的意識を評価。両者を比べることで、一人ひとりの転倒リスクを判定するものだ。
その結果、転倒への主観的意識は年齢が上がっても変わらないのに対し、客観的な身体的機能は年々低下することでリスクが上昇する傾向がくっきりと表れた。身体機能の評価が低い高齢者ほど、実際に被災していた(図1)。労働時間当たりの被災者数を表す「度数率」や1千人当たりの4日以上休業者数も、身体機能の点数、および質問との差に比例して高まることが分かり、具体的な高リスク者が見える化された(図2)。
「セルフチェックを通じて、ご本人の転倒リスクへの気づきが生まれる点が大きい。さらに『リスクチェックを受けて家でもやれる運動を始めた』『エア縄跳びをやり始めた』など、健康に向けたポジティブな行動にもつながるなど、想定以上の手応えを感じています」
■「推進者」軸に全国へ 派遣先との共同実施も
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