休業4日以上の労働災害で最大の割合を占める「転倒」。特に骨折など重症化リスクの高い、高年齢労働者での増加をどう防げばよいのか。転倒の状況を詳しくみると、原因は「滑り」の割合が最も高いとの研究結果も示されている。来春から事業者へ努力義務化される、高年齢労働者の災害防止措置の具体像について、日本職業・災害医学会での議論から探る。
■水で濡れた排水溝、凍結した屋外通路は要対策
厚生労働省の2024年労働災害発生状況によれば、休業4日以上の死傷災害者数は13.5万人と4年連続の増加。災害の類型別割合では「転倒」が26.8%で最も多く、「動作の反動・無理な動作」16.4%や「墜落・転落」15.3%を大きく上回る。
災害は加齢による発生率の高まりが顕著で、千人あたりの死傷者数(千人率)を年齢別にみると、男女ともに50代後半で全年齢平均を上回り、加齢に応じて上昇する傾向がみられる(図1)。また転倒災害は特に高齢女性で骨折のリスクが高く(図2)、平均休業日数は48.5日と比較的長い。


高年齢労働者の転倒災害をテーマにした第73回日本職業・災害医学会でのシンポジウムに登壇した大西明宏・労働安全衛生総合研究所上席研究員は、転倒による労働災害の発生原因は「『滑り』が約4割と最も多い」との研究結果を発表した。
厚労省がウェブで公開している死傷病報告を無作為抽出した労働災害の転倒事例について、11年の6685件、12年の6976件の発生状況を分析。11年の結果では「滑り」が40.0%、「つまづき」が15.9%、「踏み外し」が5.4%などとなり(図3)、12年の結果もほぼ同様の傾向だった。

滑りによる転倒災害の月ごとの変動(11年分)をみると、1月は59.5%まで上がり、2月も45.6%と冬期の上昇傾向が著しい。さらに滑りの原因は、「水系」33%と「氷」21.4%の割合が高く、「雪」5.5%、「油系」3.2%などと続いた。
大西研究員は以下のように注意を促す。
「水で濡れた未補修の排水溝などは特に転倒しやすい。こうした床面の補修は作業環境整備として極めて重要です。また屋外の通路や駐車場、出入り口などでの発生割合も高く、冬場で凍結が予想される場合などには融雪剤や砂の散布も有効でしょう。水で濡れた床や凍結面での作業時には、防滑靴を使用するなどの対策が考えられます」
■年内にも指針案とりまとめ、個人差への対応を
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