
一般社団法人AIガバナンス協会 業務執行理事
経経済産業省、Bain&Coを経て、米スタートアップ・Robust Intelligenceで日本でのAIガバナンス普及に取り組んだ後、現職。現在はAIガバナンス協会理事として標準化活動や政策形成に関わるほか、企業のAIガバナンス構築支援の経験も多数持つ。社会学の視点からのAIリスクの研究にも取り組む。修士(社会情報学)。
■HR×AI リスクとチャンス⑥
前回は、日本のAI規制において、事業者による主体的なガバナンスモデルが重視されていることをみてきた。今回は、日本企業もビジネスを行うことの多い米国とEUのAI規制の全体像、とりわけHR領域に関係する実務上の要点について確認していこう。
■米国 AIの差別を規律
まず米国においては、連邦レベルでの包括的なAI規制法などは存在せず、バイデン政権期には主に生成AI基盤モデルに着目したリスク管理政策が進められてきた。その後トランプ政権における政策転換で同大統領令に掲げられた政策の見直しが進められるなど、より競争力を重視した政策への転換が図られている。
ただし、HRに関わる領域については生成AIの流行前から、規制やガイドラインの整備が進められてきた。
まず、米政府の雇用機会均等委員会(EEOC)は2023年、企業の採用・昇進におけるAI活用において差別などが生じる場合、人種や宗教、性別等に基づく雇用差別を禁じた公民権法に違反する可能性があるとするガイダンスを発表した。これは、既存法によってAIの差別を規律するという方向性である。
また、州法や自治体の単位では、新規のハードローが導入されている例もある。23年にニューヨーク市で採用AIに対する規制が導入され、「自動雇用決定ツール」と呼ばれるソフトウェアを活用する企業に対して第三者による「バイアス監査」を行い、結果を公開することが義務付けられている。
このように米国では、連邦レベルでは既存の差別禁止法を根拠にしたAIの規律が、また州・自治体レベルでは新規のハードローによる規律が進められている。
なお、HR領域以外も含む包括的なガイダンスとして、国立標準技術研究所(NIST)の発行した“AI Risk Management Frame work”もよく参照されている。
■欧州 HRはハイリスク
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