■重大性知らせる措置無く 懲戒処分もなされていない
大手建設会社の労働者が暴行、暴言を理由に普通解雇に。判決は会社の解雇事由を精査し「粗暴な言動は根深いものがある」としながら、社内の同種の不祥事への対応が注意にとどまること、解雇に至るまで懲戒処分がされていないこと、解雇回避の検討が十分行われていないこと等を理由に解雇は無効と判断しています。
■事件の概要
原告は鹿島建設に平成7年4月に入社し、事務職として複数の支店に勤務した後、平成29年に関東支店に異動。この異動までは粗暴な言動が見られなかったとされていますが、平成29年8月以降令和3年9月に自宅待機を命じられるまで、複数回にわたって上司、部下、協力会社の従業員に粗暴な言動を繰り返し、異動等の方法で注意喚起がされてきました。
令和3年8月、原告の経費の承認行為をめぐって上司であるC所長に対して、「殺すぞ、お前、本当に」などと発言。会社は同月6日付で訓告書を交付。訓告書には、C所長の眼鏡が吹き飛ぶほどの力で頭を叩く、肩をわしづかみにするなどの行為があげられましたが、C所長が会社に送信したメールには、肩をわしづかみにしたという記載はないなどその態様については争いがあります。
人事部は9月1日付で自宅待機を命じ、その後8回の面談が行われます。会社は12月に解雇通知書等を送付しました。なお、令和2年に同社では、部長級の安全総括が課長代理の頭を頭突きするという同種の暴力がありましたが、訓告や懲戒処分はされていません。
■判決の要旨
判決は解雇事由を原告の主張と照らして精査しています。特にC所長への暴行は「電話をかけ、大声で文句を言うなどしたことはうかがわれるものの、陳述書の記載及び証言をもって肩をわしづかみにしたと認めることはできない」としました。
また、C所長に恐怖感を与える態様で数回叩いたとの会社の主張に対しては、「解雇通知書においては当該事実の記載がない上、C所長作成の陳述書にもその記載がないことに照らせば上記事実があったと認めるに足りる証拠はない」と判断しました。
この他、K課長代理への体当たり、L副所長への恫喝、派遣社員への怒声についての証言をにわかに採用することができず、会社が解雇事由としてあげた粗暴な言動に対する証言を採用できない問題も指摘しています。
それでも判決は原告の行為は職場の秩序に反し、勤務環境を害するものであることは明らかであると断じています。解雇事由に見られるように、上司、部下等に対し、粗暴な言動が見られ、訓告を受けているほか、言動を踏まえて2回の異動がされるなどの方法で注意喚起がされているにもかかわらず、C所長への行為に及んでいることに照らせば、「原告の粗暴な言動は、根深いものがあることがうかがえる」としました。

しかし、結論として「本件解雇事由をもって、直ちに労働契約の継続を期待することができないほどの重大な事情があるとまでは認められないことから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効というほかない」と判断しました。
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