賃金改善とは、読んで字のごとく、賃金を改善することです。ベースアップ(ベア)が、この賃金改善という表現に変わったという印象があります。しかし実は、賃金表を書き換えて一律に底上げをするベースアップのみならず、むしろ特定の年齢層や職種に限定して賃金の底上げをする場合にも、この賃金改善という用語を使っています。
この賃金改善という呼び方が世間で多く使われ始めたのは、いわゆる失われた30年に入った頃に、経営層から「ベアは論外」といわれ始めた時期と重なります。従来のベースアップが、賞与や一時金、退職金、あるいは社会保険料の算定のもとになる基礎額の増額に直結することから、敢えてベアという用語の使用は避けられました。
これまで賃金改善を行った企業では、実際の労働の市場価値と比較して低い年齢層や職種の賃金の底上げに特化してこの用語を使いました。
この賃金改善は、賃金水準の是正には貢献したのですが、全体の賃金水準の向上については、それほど効果は無かったようです。例えば、中高年一般層の賃金水準は向上せず、むしろ賃金改悪ともいえる結果となりました。一方で、悪名高い年功的な側面を是正することには成功したかもしれません。
物価が上昇しつづける時代に入ったにもかかわらず、賃金水準が低いままですと、とくに賃金改善の恩恵を受けなかった層は、生活が苦しくなります。今後は、新しい時代に沿った、ベアの仕組みをも盛り込んだ、企業の労働生産性や市場価値を反映できる新しい賃金決定のルール(DKモデル)が求められるのです。

賃金システム研究所🄬所長 賃金改革のプロ・プラチナ企業育成のマイスター🄬
主な著書:「新訂2版 賃金システム再構築マニュアル」、
「赤津雅彦の賃金改革キーワード」、
「伸びる組織のための人事・賃金基礎講座」等
(注)「プラチナ企業育成マイスター」は登録商標です。