顧客や取引先からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメントへの対策の必要性が高まるなか、特にカスハラか否かの「線引き」の難しさが課題となっている。日本ILO協議会が11月29日に開いたディーセントワーク・セミナーでは、労使双方が現場の取組みを紹介。サービス向上に役立てるべき正当な意見や要望と切り分けつつ、業種ごとの実情を踏まえたカスハラ対策に繋げる実効的な判断基準をつくるためには、何が必要なのだろうか。
■どう判断? 業界で基準 対応上限時間などルール化
民間鉄道会社73社が加盟する日本民営鉄道協会(総従業員数8.5万人)は2023年、加盟各社向けに「民営鉄道業界におけるカスタマーハラスメント対策マニュアル」を作成した(図1)。カスハラの判断基準を実例や法令に基づいて具体的に明確化し、対策の必要性を示すとともに、相談体制や行為類型別の対応例など実践的な措置に踏み込んでまとめている。
鉄道業界では、乗務員や駅係員への顧客からの暴力行為への対策を2000年代初頭から推進。また、大声によるクレームや威嚇・脅迫といった被害を含めたカスハラ対策の部会を22年に設置。議論を重ねてマニュアルを作成した。
同協会の羽尾一郎理事長は「正当な要望やご意見には丁寧な対応ときめ細かい情報提供が基本だが、社会通念上不相当な手段には毅然とした対応が必要。その判断に加盟各社も一番苦労している。客観的な視点から明確化した基準があることで、各社も取組みが進めやすくなる」と強調する。
想定事例では、対応上限時間の設定や録音録画などの記録の重要性、外部機関への相談といった実務的な要点も盛り込んだ。マニュアルを踏まえ、24年3月には東京地下鉄、同8月には東急電鉄が対応方針を制定するなど鉄道各社の取組みが続いている。
羽尾理事長はマニュアル作成で重視したポイントについて、「まず従業員の被害意識に寄り添った実態把握と安全確保に努めること。その上で、現場任せにせずトップが我が事として責任を持ち組織としての基本方針を定めること」などをあげた。
■小売流通で被害深刻 業種別に特徴調べ対策
小売や流通・サービスなど、カスハラ被害に遭う割合の高い短時間労働者を多く組織する産業別労働組合UAゼンセン(組合員数190万人)では、17年からカスハラ対策アンケートを実施。第3弾の24年調査では、直近2年以内に被害に遭った割合は46.8%と、20年の前回調査に比べて約10㌽減少したものの半数近くにのぼった。
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