個々の社員の長期的なキャリア形成に、会社としてどう向き合えばよいか――。テントや膜構造建築物の設計・製造・施工を手掛ける太陽工業(大阪市、従業員数588人)は8月から、社員一人ひとりがキャリアや異動の希望を人事部や経営層に直接伝えることのできる「キャリア自己申告制度」を始めた。田村英範・総務人事本部長は「20年前は会社に就く『就社』意識が強かったが、若手世代を中心に自らのキャリアをどうつくるかという意識に変わりつつある。会社としてそれに応え実現の機会を提供できるかが、中長期の人材育成のポイントになるでしょう」と強調する。詳しく話を聞いた。
■キャリア、職種の希望は? 年1度申告、まず可視化を
キャリア自己申告制度は、本部長以上の役職者と新入社員を除く全正社員が、それぞれの仕事状況を踏まえて自らのキャリア形成や異動の希望、新たな職種への挑戦意向などについて、人事部や経営幹部に直接伝えることができる制度だ(図1)。
社員は人事部から送られる質問項目に、オンライン上で回答する形で希望を申告。人事部に直接申告されるため、内容は上司や他の同僚などに知られることはない。年に1度の頻度で継続的に実施する。なお管理職向けには、マネジメント面などを含め全社員向けと異なる項目で部下のキャリアに対する希望を尋ねている(図は一般職の項目のみ掲示)。
制度を新設した背景について、田村さんはこう話す。
「2022年3月に現社長が就任し、新体制のもとで経営基盤を安定化させるために、人事制度についても中長期的な視点から評価や役割・等級などの改革を進めているのが一点。もう一つは、近年とくに若手を中心に、自らのキャリアを自分で創りたいという意識が強まっています。そうした希望に対し会社として向き合うためにも、まず個々の社員の希望を可視化し、それを支援する仕組みが必要です」
特に重視するのは長期・継続的な視点だ。
「事業部門を超えた異動などを進めていく上でも、長期的な視点は不可欠です。もちろん、個々の社員の希望にすべて応えられるわけではありません。ただ会社として実現の機会を提供し実践していくことが、育成面でプラスになる面もあるでしょう。一方、社員の側に自律的なキャリア形成の意識の醸成を継続的に促していく意味もあります」
これまでも整えてきた階層別の教育研修をはじめ、ビジネス・マネジメントスキル研修、専門・技術OJT/Off―JT、自己啓発eラーニングや資格支援制度についても、個々の社員のキャリアビジョンに沿って主体的に学べる仕組みへの再構築を進めているという。
「自らのWill(やりたいこと)、Can(できること)、Must(するべきこと)を個々が整理し、なるべくその3つが交わる領域で仕事をすることが、長期的なキャリア形成や自律したパフォーマンスにも繋がります。今後は対象を絞ったワークショップ形式のキャリア研修や、またグループ共通の教育プログラムなどグループとしての強みも活かしていきたい」
■透明性など3つのポリシー 将来像見出せる組織へ
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