ハラスメントの問題に詳しい今津幸子弁護士に、近年の特徴や動向、また組織として対策を進める上で押さえるべきポイントを尋ねた。
■「絶対に謝らない」
企業からの相談でよく聞くのは、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」という話です。相手を激しく罵倒するような強い言葉を拾えばそれだけでパワハラと認定されるような事例ばかりではなくなってきています。
例えば、上長の指示内容が不明確だったりコロコロ変わったりして、そのことを指摘されると理不尽に怒りだすケースや、また怒り方についても強い口調をぶつけるのではなく、「なぜ〇〇したのか。なぜ…なぜ…」と問い続けて相手が謝ってくるまで詰めるといったケースがあります。一方、部下の側も、客観的に見れば問題はないと思われる上長の対応を、自分が不快に感じたからとクレーマーのように度々相談窓口に報告し、事態の収拾を難しくしている場合もあるようです。
双方ともに共通する特徴は、「絶対に謝らない」こと。常に自分は悪くないという他責の姿勢で、かつ暴力や暴言など分かりやすく懲戒事由に当たるような行為はしないので、周囲もどのように介入してよいのか分からないわけです。しかし、被害に遭った側は精神的に追い詰められ、職場環境も確実に悪化している。
こうしたマネジメントの問題については、ハラスメントを防ぐ観点から組織として対応する視点が重要でしょう。仮に処分が難しくても、指導は可能です。上長に問題があるようであれば、自らのマネジメントについて考え直してもらう指導を行うことが大切です。誰でもきっかけが与えられなければ、改善は難しい。必要であれば部署の異動を行うなど、組織の上位の立場や人事サイドからの対応が求められます。
ハラスメントを防ぐポイントは、相手をリスペクトすること。そのために大事なのは、相手に物事を理解してもらおうとする意識です。ハラスメントになってしまうコミュニケーションの特徴は、自己完結的に自らの思いや怒りを発散する姿勢。そうではなく、まず相手が理解しているか、よりよく伝えるために何が必要なのか、その姿勢がハラスメント防止の基本です。それを忘れなければ侮辱的な言い回しはしないはずですし、ましてや性的な話などする必要もないわけです。
組織としてそうしたコミュニケーションに関するメッセージを出し、トップや経営層が率先して実践することは、社内への浸透の上でも効果的でしょう。そうした取組みが、法律が事業主に義務付けているハラスメント防止措置の一つである「周知・啓発」にも繋がっていきます。
■最多は「特に何もしなかった」
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