■連載:人事考現学(著者:山本圭子 法政大学法学部講師)
今年は労働判例の当たり年らしい。半年あまりで複数の重要な最高裁判決があった。なかでも協同組合グローブ事件(最三小判令6・4・16)は、事業場外労働のみなし労働時間制に関し、阪急トラベルサポート事件(最2小判平26・1・24)以来の最高裁判決とあって注目を集めている。
外国人の技能実習に係る監理団体(Y)の指導員(X)が事業場外で従事した業務(本件業務)につき、時間外労働の割増賃金等を請求した事案なのだが、原審(福岡高判令4・11・10)は、日報の存在を理由に労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした。
しかし、最高裁は、Xが従事していた本件業務は、実習実施者に対する訪問指導、技能実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等、多岐にわたるもので、Xは、本件業務に関し、自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されており、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったとし、このような事情の下で、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すれば、Xが担当する実習実施者や1カ月当たりの訪問指導の頻度等が定まっていたとしても、Yにおいて、Xの事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難いとした。
そして、業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとした原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄し差戻しとなった。
先例である阪急トラベルサポート事件では、内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされていたことから、労働時間を算定し難いとはいえないとされたのに対して、本件では、日報の正確性の担保がないと指摘されている。
本件をもって事業場外労働の要件が緩和されたととるのは早計であり、なお裁判所は阪急トラベルサポート事件で示した判断枠組みを維持しているようにみえる。昭和63年のポケベル、無線機といった表現の古い通達を見直し、林裁判官の補足意見が指摘するように、時代に即した解釈を示すべきではなかろうか。