深刻化する人手不足による採用難に、地方企業はどう対応しているのか――。江戸時代から続く漁具・船具販売のアサヤ(宮城県気仙沼市、従業員数82人)は、若手の離職や定着難への対策として2022年秋に採用プロセスを一新。専任担当者のもとで、通年採用による応募ルートの多様化ときめ細かな求職者対応、選考権限の現場委譲、積極的な職場情報の発信などを通じ、1年半で約70人の応募からのべ14人の採用に結びつけた。確かな手応えの背景を尋ねた。
■現場が徐々に積極的に 入る側と空気感を共有
同社の廣野一誠社長は、採用の体制を一新した経緯をこう振り返る。
「もともと採用は私が担当していましたが、他の業務もあって、応募者から問い合わせが来た際のタイムリーな対応が難しい状況がありました。また、現場で求める人材を聞いた上で選考を進めていたつもりですが、応募者とのやりとりが不十分になりがちなこともあり、現場の社員らも『言っていた人物像と違う』とギャップを感じたり、応募者側が違和感を感じて離職に繋がるケースもありました」
若手の離職が相次いだタイミングでもあった2022年秋、総務部に採用専任の社員を配置。欠員の都度求人を出す体制を改めて通年での募集体制とし、1次面接をはじめとする選考プロセスには、採否権限を含めて実際に採用する部門の現場担当者が参画する仕組みとした。
「これまでも採用前に現場担当者の面接はありましたが、『経営者が決めたら使う(採用する)しかない』となりがちです。だから私からは『面接をして箸にも棒にもかからないようならちゃんと断っていい』と。その分応募者の数を増やすように努力するから、丁寧なマッチングで厳選してほしいと現場に伝えています」
応募者を増やすために、どんな対策を進めたのか。「まず求人票を整えることから始めました」と話すのは、採用を担当する総務部の廣野香苗さんだ。
つながりのあった社外の人事コンサルタントにアドバイスを仰ぎつつ、廣野さんが現場に足を運んでニーズをくみ取りながら、求める人材像の要件定義など、応募者に伝わるよう求人記事の内容を整えていった。出稿媒体はハローワークや求人広告サイトをはじめ、求人検索エンジン「indeed」や自社ホームページ、SNS、自治体求人サイトなど、応募チャネルを多様化した。
並行して力を入れているのが、社員一人ひとりにインタビューした『アサヤの働き人』シリーズ(下写真)など、SNSを通じた発信だ。
「福利厚生施策などをタイムリーに紹介しやすいのも利点」と廣野香苗さん。一方で、こうも話す。
「求職者が何を見て応募してくるかは様々で、SNSがどれだけ直接影響しているかは正直、分からない部分もあります。ただ、ホームページを含めて定期的な更新や活気のある内容が、プラスの印象を与えていることは感じます」
その上で、求人記事やホームページへの問い合わせ対応など、応募者との対話が重要だと強調する。
「『ちょっと興味あります』など問い合わせがあったらすぐに応募者と連絡を取り、なるべく早く面接をします。一方、現場担当者の側は、当初は『忙しいからそっちで決めて』と言われることもありましたが、続けていくうちにだんだん積極的に選考に関わってくれるように。応募者に職場を案内したり、『一日仕事体験』を行うこともあります。社風のすべては分からないにしても、入る側と受け入れる側がなるべく職場の空気感を共有できる時間をつくれるよう、双方との調整やケアが大事だと考えています」
■マップでわかりやすく 「社員が主役になれる仕事」
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