仕事に熱意を持って取り組む人の割合を示すエンゲージメント率が、日本は世界で最低水準との国際調査が発表されるなか、企業にとってもその向上が喫緊の課題となっている。「仕事のやる気を引き出すのは『自己決定』への欲求にある」と指摘するのは、米国ボストンカレッジ大学院のD.L.ブルスティン教授(職業心理学)だ。6月に開かれた来日シンポジウムの内容から、エンゲージメント向上のポイントを探る。
■自己決定の3つの条件
「ワーキング心理学」は、ブルスティン氏が2006年に著した同名の書籍がその嚆矢だ。氏の最新刊である「人間の仕事――意味と尊厳」は2023年に邦訳が出版され、その監訳者らを中心に6月、来日シンポジウムが企画された。
ブルスティン氏は、働くことで満たされる人間の欲求について、①生存とパワーの欲求、②社会的つながりと社会貢献の欲求、③自己決定の欲求――の3つがあり、それぞれは階層的なものではなく、様々な状況のなかで同時に経験できるものと位置づける(下図)。
その上で、やる気やモチベーションに特に関係が深い要素として自己決定の重要性を強調する。
「自己決定には、自らの意志で選択し決定する『自律性』、得意な作業に対する『有能感』、人との繋がりを表す『関係性』の3つの条件があります。これらの条件によってモチベーションが上がるということは、1970年代以降の心理学の研究成果で実証されています」(下図)
■東京ディズニーランドの清掃係の自律性
シンポジウムでは、仕事における自己決定に関連し、上智大学経済学部の森永雄太教授が「ジョブ・クラフティング」について解説。ジョブ・クラフティングとは、働く一人ひとりが仕事の意義や行動を捉えなおし、やりがいのあるものとして主体的に内容や範囲を修正していくことだ。
例えば、東京ディズニーランドでの清掃係(カストーディアル)らの実践もその一つ。園内の案内係や販売担当などと比べて地味な印象がある清掃係は、すぐに辞めてしまう人も多いなど不人気な職種だった。しかし清掃係のなかに、顧客に喜んでもらうために“勝手に”仕事内容を変えて、掃除した後の床に濡らした箒でキャラクターを描いたり、枯れ葉で絵を描いたりする人が出現。顧客に喜ばれ、かつ会社の方針とも合致していたため、いまでは人気の清掃係も増えているとの事例を紹介した上で、森永教授はこう指摘する。
「先輩と違うことをすると『勝手にするな』と怒られたり、『言われた通りにやって』と言われる職場もまだ日本には多い。しかし、多様化が進む組織で今後より重要になっていくのは、個を支え、活かすこと。例えば、社外で学んだ独自の知識や過去の職場経験の発揮を促す人事施策や、従業員をサポートする民主的なタイプのリーダーシップのあり方が求められる」
■組織的公正がモチベーションを高める
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