なぜ情報開示に取り組む必要があるのだろうか。特に中小企業にとっては、直接的な影響が大きいのが採用面だ。情報環境の変化のなかで、どのような企業側の発信が求められるのか。若年者の採用・育成など企業の雇用管理状況を厚生労働大臣が認定する「ユースエール認定」を例に、人手不足への対策面から情報開示の必要性を探る。
■存在感増す「評判」
採用面での情報開示の重要性が高まる背景には、いわゆる就活クチコミサイトなどの伸長によって、事実上求職者が社内の情報に直接アクセスしやすくなったことが一因だ。例えばオープンワーク(東京都渋谷区)が運営する大手サイトは、社員クチコミ数・評価スコアは計1670万件、会員数は630万人(2024年3月現在)に上る。
労働政策においても、法令で一律に禁止したり行政監督や罰則で強制したりする規制的な手法とともに、男女賃金格差や育休取得率の開示など情報的手法が用いられるケースが増えている。こうした手法について、小畑史子京都大学教授(労働法)は「求職者等の評判という間接的なプレッシャー」(「ジュリスト」24年6月号)と位置づける。
求職者の負の評判を予防する取組みが採用面で重要であるのは言うまでもないが、一方でポジティブな評判の発信は、経営資源の余裕が十分でない中小企業ではなおさら簡単ではない。そうしたなか、「ユースエール認定」など認定取得は有効な手段の一つだ。
同認定は、若者の採用・育成に積極的で、雇用管理状況が一定の基準を満たした300人以下の中小企業を厚労大臣が認定するもの。若年層の育成環境には求職者側の不満が大きい。例えば前出のオープンワークによる「社員クチコミ白書2024」によれば、法令遵守や社内の風通し、人事評価の適正感など8つの評価項目のうち、「20代成長環境」の口コミ評価に基づく10年平均スコアだけが低下している。逆にこうしたニーズに対応している企業への求職者評価は、より高まっていることが窺える。
ユースエール認定の要件は、「人材育成方針」と「教育訓練計画」の策定や直近3年の正社員離職率が20%以下などの基準、メンター制度やキャリアコンサルティング制度の有無の公表や平均勤続年数や男女別採用者数の公表などをはじめ、若年者の雇用管理状況について定められた認定基準を満たした上で、労働局への申請が必要だ。
メリットとして、「職場情報総合サイト」への掲載など情報発信のサポートや求人票への記載、日本政策金融公庫からの低利融資や公共調達での加点などがある。
2015年の若者雇用促進法の施行で認定が始まり、認定社数は24年3月末時点で1235社。SNSをはじめ就活の情報量が増えるなか、企業側の発信が検索などを通じて求職者へ届くための評価軸の一つとして、今後さらに重要性が増していくと考えられる。