投資家向けに企業の人事・労務データを開示する動きは、国際的にも関心が高まっている。その一つが、労働分野に関する情報開示を進める国際イニシアチブ「Workforce Disclosure Initiative (WDI):労働情報開示イニシアチブ)」だ。2022年度の調査では国際的な大手企業167社(従業員数計1250万人)が回答し、50超の機関投資家の運用資産総額は9兆ドル(約1340兆円)にのぼる。
雇用やリスク管理、ガバナンス、安全衛生、ハラスメントなどに関する質問に対し、企業が回答情報を開示することで、労働分野の改善に取組む企業への投資を促進する仕組み。2016年に企業の情報開示を進める英国のNGO「Share Action」が設立し、24年2月からトムソン・ロイター財団に運営が引き継がれた。
開示基準は計13分野で、各分野ごとに特に重要な指標を「コア指標」として27の設問に整理している。例えば男女間賃金格差や正規・非正規労働者の割合とその増加率、男女別の自発的・非自発的離職率とその変化、人権デューデリジェンスへの対応、従業員に占める労働協約の適用割合、従業員の意思決定への関わり、病気休暇など体調不良従業員への対策など。
回答企業は欧州(約76%)と米国(約15%)が多くを占めるが、アジアやアフリカの企業も参加しており、日本からはトヨタ自動車、富士通、ファーストリテイリング、セブン&アイ・ホールディングスの4社が参加している。8割超の企業の開示情報は、投資家だけでなく一般に公開されている。