■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
労働者災害補償保険法第16条の2は、遺族補償年金を受給できる者について、次のように夫と妻で年齢要件の格差をつけています。
第十六条の二 遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者にあつては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、六十歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること。
三 兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること又は六十歳以上であること。
四 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること。
一言で言えば、同じく労働者の配偶者であっても、男性労働者の妻であれば年齢要件がかからないのに対し、女性労働者の夫であれば60歳以上という年齢要件がかかるのです。いや、妻以外であれば、父母であれ祖父母であれ子や孫であれ兄弟姉妹であれ18歳未満か60歳以上という要件がかかるのに、妻だけそれがなく、18歳から60歳までの間であっても「労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた」のであれば、遺族補償年金の対象になるといった方がいいかもしれません。
同様の規定は国家公務員災害補償法第16条や地方公務員災害補償法第32条にもあり、後者については、地公災基金大阪府支部長(市立中学校教諭)事件の大阪地裁判決(平成25年11月25日)が違憲判決を下したのに対し、大阪高裁判決(平成27年6月19日)が合憲判決を下し、最高裁が平成29年3月21日に合憲判決を下して決着したことは周知の通りです。とはいえ、男女共同参画社会が進展する中で、こういう男女役割分業を前提とした規定がいつまで正当性を主張しうるのかは、議論のあるところでしょう。本稿では、そうした法解釈論に深入りするつもりはありませんが、そもそもなぜこうした男女異なる規定が設けられたのかを、立法の歴史を遡って確認しておきたいと思います。
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