■キャリアの継続、採用強化狙う
人材不足解消のため、就業環境の改善に邁進する企業が増えている。鉄道をはじめとする運輸交通業もその一つで、人材の相互受入れのほか、賃上げ、ハラスメント対策などと対策のメニューはバラエティに富む。
日本民営鉄道協会は1月10日、ライフイベントなど勤務場所の都合で就労継続が困難になった社員を相互で受け入れるスキーム「民鉄キャリアトレイン」を拡充したと発表。2018年から運用していたが、従前までのスキームは大手事業者に参加を限定し、人材の具体的な受入れの検討も個社間の直接交渉に委ねていた。拡充後は、対象を中小事業者を含めた78社に広げた上で、民鉄協が各社を繋ぐことで全国規模でのスムーズな人材受入れを実現する。
受入れの検討・可否は個社間に委ねるが、参加各社にスキームに関する連絡窓口の設置を求め、民鉄協が移動希望者が所属する会社と希望先会社の窓口を繋ぐ。仮に、配偶者の転勤に帯同する九州の鉄道会社の運転士が転勤先で勤務を希望した場合、申請を受けた所属会社が運転士の情報を民鉄協に提供。民鉄協は運転士の希望受入会社と所属会社の窓口を繋げ、採用が決まれば東北の鉄道会社で運転士として継続して勤務が可能となる。民鉄協は多様な働き方を整備することが、人手不足解消や安全輸送のノウハウの継承に好影響を与えると期待を寄せる。
伊予鉄グループ(愛媛県松山市)は、鉄道・バスの賃上げを1月に実施した。例年春季に実施する労使交渉を前倒しして行った結果、早期に賃上げすることで合意。従業員の処遇改善により、モチベーションの向上と採用強化に繋げる。
賃上げは1人平均5%以上とし、諸手当を除いた初任給も鉄道20万円、バス20.5万円と9%以上引き上げて、諸手当の新設・拡充を図る。このほか鉄道・バスともに、年間休日数を8%以上増やし、完全週休3日制が選択できる新たな働き方も新設。また定年年齢も4月から65歳に延長し、深刻化する運転士不足の解決を目指す。
JR東日本(東京都渋谷区)は4月から、専門的な知識を有する優秀な人材の確保・定着の観点で、博士号取得者の初任給を2万5千円引き上げる。現行から最大約9%増となり、東京23区内勤務の総合職の場合で30万2215円に増額。すでに入社している博士号取得者、入社後に博士号を取得した者にも、2万5千円を支給する。
また将来を担う若手社員の処遇改善を目的に、奨学金を受給していた社員を対象に代理返還支援を新たに制度化する。毎年5万円を上限に会社が入社後最長10年間、返済額の一部・全額を日本学生支援機構などへ直接送金を行う。
名鉄バス(愛知県名古屋市)も4月から、採用強化策の一環として奨学金返済支援制度を導入するとともに、住宅支援策を拡充する。事業エリア外から採用された者で、社宅(UR)利用に月3万5千円、指定不動産会社の賃貸物件利用に月2万5千円を3年間支給する現行制度について、4年目以降はともに月2万5千円に統一した上で、支給期間を8年に延長。引越など初期費用も全額負担して、遠隔地からの採用に重点化する。
タクシー最大手の日本交通(東京都千代田区)は、カスタマーハラスメント防止のために運送約款を変更した。昨年10月20日に申請し、関東運輸局が12月12日付けで認可して運用に至る。
具体的には、旅客のカスハラに対して運転者が中止を求め、応じない場合は運送の引受け・継続を拒絶するほか、警察などへの通報や損害賠償・慰謝料の請求も辞さない旨を明記した。新卒や女性の乗務員の採用が一段と進むなか、社員が安心して乗務できる環境を整えるのが狙いだ。