「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place To Work Institute Japan(働きがいのある会社研究所、以下GPTW Japan)がこのほど発表した研究レポートによれば、組織内で安心して意見交換ができる心理的安全性を高める土台には、「年齢・性別・人種」といった個人の属性に関わりなく正当に扱われることや、「報酬・利益の公正配分」「昇進昇格への納得感」など評価・制度面について、「職場の公正感があることがポイントになる」と分析している。
GPTW Japanは、世界150カ国以上、1万社を超える企業が参加する働きがい調査を実施するGPTWI(本部米国)からライセンスを受けて調査を実施。働きがいの基にはマネジメント(経営層)と従業員との間の「信頼」があり、その構成要素として「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」の5つがあるとする「GPTWモデル」に基づき調査を行う。5要素に分類された60の設問による「働く人へのアンケート」への回答によって数値化された企業の「働きがいスコア」などにより、「働きがいのある会社」ランキングを毎年発表している。
今回のレポートでは、組織風土や業績の向上とも関連が大きいとされる「心理的安全性」に着目。組織やチームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっており、対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態を指す心理的安全性と、働きがいスコアの各設問との相関を調べた。
まず、GPTW Japanの調査参加企業における2023年版調査結果(21年7月~22年9月回答)から、「心理的安全性」の高い企業(PS高群)と低い企業(PS低群)を抽出した上で、前出の「働く人へのアンケート」の60の設問のうちPS高群でスコアが高い上位5位と、PS低群でスコアが低い下位5位を示したのが下の表だ。
心理的安全性の高いPS高群の上位5設問では、「年齢」「人種」「性別」などに関係なく正当に扱われるといった個人の属性に関する「公正」要素の設問が多くを占めた。一方、心理的安全性の低いPS低群の下位5設問をみると、「仕事に行くことを楽しみにしている」「仕事の割り当てや人の配置を適切に行っている」が低く、さらに「報酬」「利益の公正配分」「昇進昇格への納得感」について不満があるなど、評価や制度に関する「公正」の設問が複数占めていることがわかった。
その上で、心理的安全性を上昇・低下させる要因を調べるため、2023年版調査と2020年版調査(18年7月~19年9月回答)の双方に回答した97社を対象に、心理的安全性を上昇させた「PS上昇群」と低下させた「PS低下群」を抽出し、それぞれの上位5位の設問と下位5位の設問を調べた(下表)。
特徴をみると、上位設問では「人種」や「性別」に関係なく正当に扱われるといった「公正」の設問が複数含まれ、下位設問では「報酬」「適切な人の配置」「利益の公正な分配」などが挙げられていた。20年版調査と23年版調査で経年的に類似した傾向がみられたことからレポートは、「心理的安全性を高める土台として職場の公正感があることがポイントになると示唆される」と分析する。
■スコアの変化からは「マネジメントの関わり」の重要性も
レポートはさらに、両調査に回答した97社のデータから、心理的安全性の「上昇群」「低下群」ごとに3年間で最も変化の大きな設問を上位5位、下位5位ごとに抽出した(下表)。
「PS上昇群」の上位5設問では、「裏工作・誹謗中傷はない」(+9.5pt)、「誰もが認められる機会がある」(+8.1pt)といった「公正」要素の設問や、「働く環境の設備が整っている」(+8.9pt)、「仕事に必要なものが与えられている」(+8.8pt)といった「尊重」要素の設問に加えて、「経営・管理者層の言行が一致している」(+8.6pt)といったマネジメントの「信用」要素の設問も上昇していた。
一方で、「PS低下群」が特にスコアを落としたのは、「経営・管理者層は従業員を意思決定に参画させている」(-8.9pt)や「経営・管理者層は従業員の提案・意見を求め対応している」(-6.6pt)といった、経営・管理者層が従業員の意見やアイデアを聞く機会に関係する設問だった。加えて「経営・管理者層は、事業を運営する能力が高い」、「経営・管理者層の示すビジョンが明確である」(共に-7.2pt)も低下した。
レポートは、「『PS上昇群』『PS低下群』のいずれの分析も、マネジメントの関わりや職場の公正さが心理的安全性の向上に関連している」と指摘している。
レポートでは心理的安全性が、働きがいの向上や新しいことに挑戦する機会に影響を及ぼしている点も調査結果から検証しており、その影響をポジティブなものにしていくためには「経営・管理者層の積極的な関わりがあることや公正感が組織に備わっていることが鍵になりそうだ」としている。