■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
もうかなり前のことなので記憶から薄れつつあるかもしれませんが、2023年3月30日に、労働条件の明示に係る労働基準法施行規則の改正が行われました。また、23年6月28日には募集時の労働条件明示に係る職業安定法施行規則の改正も行われています。これら改正省令はいずれも来年2024年4月1日から施行されることになっています。こうした改正がどういう流れで導入されることになってきたのかをごく簡単に振り返ってみましょう。
まず、2012年末の総選挙で自由民主党が大勝し、第2次安倍晋三内閣が成立してすぐの2013年1月に規制改革会議が設置され、同年3月には雇用ワーキンググループが置かれたました。同WGが示した検討項目には、解雇規制の項とは別立てで「勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方の充実を図るべきではないか」とあり、これがその後同WGでの議論の焦点となりました。同年5月の同WG報告や、同年6月の規制改革会議答申では、これがジョブ型正社員という名称で取り上げられ、無期雇用、フルタイム、直接雇用だけでなく、職務、勤務地、労働時間(残業)が無限定な日本の正社員のあり方を改革し、職務、勤務地、労働時間が特定されているジョブ型正社員に関する雇用ルールの整備を行うことを提起していました。ところが、同WGでの議論では、これが解雇しやすい労働者の創設という文脈で議論された面もあり、野党や労働組合から批判を浴びることとなったのです。
同年6月の「日本再興戦略」では、この問題について「職務等に着目した『多様な正社員』モデルの普及・促進を図るため、成功事例の収集、周知・啓発を行うとともに、有識者懇談会を今年度中に立ち上げ、労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について来年度中のできるだけ早期に取りまとめ、速やかに周知を図る。これらの取組により企業での試行的な導入を促進する」としています。これを受けて、2013年9月には厚生労働省に「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会(学識者10名、座長:今野浩一郎)が設置され、制度導入のプロセス、労働契約締結・変更時の労働条件明示のあり方、労働条件のあり方、いわゆる正社員との均衡のあり方、相互転換制度を含むキャリアパスなど、多様な正社員の雇用管理上の留意点について調査検討を行うこととされました。
同懇談会の報告書は2014年7月に取りまとめられましたが、勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員それぞれについて、効果的な活用が期待できるケースを示し、労働者に対する限定の内容の明示、事業所閉鎖や職務の廃止等への対応、転換制度、均衡処遇などについて具体的な提言を行っています。このうち解雇に関しては、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、解雇法理の適用において、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向があるとしています。こうして1回目の政策回路は非法令的な形で終わったわけです。
一方、内閣府の規制改革会議は2016年9月から規制改革推進会議となり、2019年5月に「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見」を公表し、同年6月の第5次答申に盛り込まれました。ここでは、「我が国においては、労働契約の締結時に、詳細な労働条件について明確な合意がなされないことがあり、企業の包括的な指示のもとで、自身の労働条件が曖昧なまま働いている労働者は少なくない」という認識に基づき、ジョブ型正社員の雇用ルールの明確化を求めています。具体的には、勤務地限定正社員や職務限定正社員等を導入する企業に対し、勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について、労働契約の締結時や変更の際に個々の労働者と事業者との間で書面による確認が確実に行われるよう、①労働基準関係法令に規定する使用者による労働条件の明示事項について、勤務地変更(転勤)の有無や転勤の場合の条件が明示されるような方策、②労働基準法に規定する就業規則の記載内容について、労働者の勤務地の限定を行う場合には、その旨が就業規則に記載されるような方策、③労働契約法に規定する労働契約の内容の確認について、職務や勤務地等の限定の内容について書面で確実に確認できるような方策、等を求めているのです。
この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。