■自由意思と認める証拠がない 最低賃金の存在を意識しておらず
解雇予告手当を受取る際にその他の債権も放棄したとの合意に署名した原告が、最低賃金を下回っている部分を請求。自由意思で債権を放棄したかが問題となりましたが、最低賃金との差額の存在を原告が認識していなかった等、自由意思と認める理由が存在しないとして、最低賃金との差額の支払いが命じられています。
■判決のポイント
昭和15年生まれの原告は平成16年に被告である会社との間で労働契約を締結。日給6000円に出勤日数を乗じたものが支払われていました。令和2年に契約が終了。その際、会社は解雇予告手当を支払っていなかったことを労基署から是正勧告されています。
令和2年3月に原告は、解雇予告手当を受領する際に他の賃金を請求することや、今後何ら申し立てや問題化しないことを誓約する、との文書に押印しましたが、同年6月に未払い賃金があるとして請求書を送付。12月に本件訴えを提起しました。被告は、解雇予告手当の支払い時に他の未払い債権があるとしても和解により消滅したと主張しました。
裁判では、「賃金債権を放棄する旨の意思表思の効力を肯定するには、その意思表示が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していることを要する」とし、判断枠組みを示しました。
そのうえで、合意書作成時に、被告において最低賃金との差額の未払賃金が生じていたことを知ったものがいなかったこと、原告にも差額を認識していたことをうかがわせる事情が見当たらないので、最低賃金の存在すら認識せずに合意書に押印した経緯に照らせば、「労働者の自由意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在しているとはいえない」と述べています。
賃金支払い請求から2年前までの請求は時効で消滅し、平成30年から令和2年までの最低賃金の差額と所定労働時間を乗じた額の請求が原告に認められています。
■判決の要旨 意思表示の効力肯定は 自由な意思に基づく必要
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