金曜日, 12月 5, 2025

マタハラ最高裁判決からみる「自由な意思に基づく同意」(今津幸子弁護士)

今津幸子(いまづ・ゆきこ)
1996年弁護士登録。現在、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士。経営法曹会議常任幹事。人事・労務問題全般の助言のほか、セクハラ、パワハラなどハラスメント問題に関する社員研修、管理職研修なども数多く行う。

■ハラスメント対応の術を身につける 第6回

今回取り上げるハラスメントの裁判例は、「マタハラ」という言葉を世に広めるきっかけとなった、広島中央保健生活協同組合(C生協病院)事件(最一小判平成26年10月23日)である。

複数の医療施設を運営するY組合で理学療法士として勤務していたXが、妊娠に伴い、労働基準法65条3項に基づいて、より身体的負担の少ない病院リハビリ業務への転換を求めたところ、当該業務への異動に際して副主任の職を免ぜられ(本件措置1)、さらにXが育児休業から復帰する際に副主任に復帰できなかった(本件措置2)ことを不服として、副主任手当や損害賠償などの支払いを求めて提訴した。

一審(広島地判平成24年2月23日)、二審(広島高判平成24年7月19日)は共にXの請求を退けたため、Xが上告した。

■復帰可否の説明なし 降格は意向に反する 

最高裁はまず本件措置1の降格について、男女雇用機会均等法9条3項(以下同項)は強行規定であり、妊娠、出産、産前産後休業、軽易業務への転換などを理由とする不利益取扱いは同項に違反し無効であるとした。

そして、降格は原則として同項が禁止する不利益取扱いに該当するとした上で、①労働者が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合、または②降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合で、降格が同項の趣旨及び目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在する場合――のいずれかに該当しない限り、たとえ降格が労働者の申出に基づく軽易業務への転換に伴うものでも不利益取扱いに該当し、同項に違反すると判示した。

最高裁は、軽易業務への転換と降格でXが受けた有利な影響の内容は明らかではない一方、Xが受けた不利益(管理職地位と手当などの喪失)は重大とした上で、降格は軽易業務への転換期間の経過後も、副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、Xの意向に反するものだったというべきであるとした。

Xは育休終了後の副主任への復帰の可否について事前に認識する機会を得られないまま、本件措置1の時点で副主任を免ぜられることを渋々受け入れたにとどまり、このような状況でのXの承諾について、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由は客観的に存在しないとした。


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