■給与計算DXの先に何を見るか 最終回
月末が近づくと、勤怠の締め忘れ催促、エクセル差し替え、スポット手当の洗い出し――給与計算の現場はここから始まる。ようやく素材がそろったと思ったら、割増賃金や欠勤控除の支払い確認、社会保険や住民税の点検。今月だけ発生する特別な支払いや月途中での入退社対応…。結果、支給前のチェックに十分な時間が回らない。この“いつもの月次”を変えるには何が必要なのか。
■月末の“火消し”が減る
連載の主要な論点を下表にまとめた。
- 外注か内製かという議論は、工程を一本の線として設計する視点がないと空回りする。どこを社内で握り、どこを任せるのかは全体の連続性で決まる
- サービス品質は抽象化されやすいので、何をもって良しとするかを言語化し、ズレを防ぐ必要がある
- 素材集めに工数の大半が偏っているため、勤怠・身上・汎用ワークフローを企業活動のログとして蓄積し、適切なタイミングで自動反映させる設計が決め手
- 加工はシステムの得意領域で、割増賃金や欠勤控除計算は機械が人より速く正確に処理できる一方、前提データが乱れていれば結果も乱れる
- チェックをリーガルとオペレーションの二層で捉え、基準を明文化し、生成AIで自動化して人は例外に集中する運用が現実的
これらの工程を一本の線としてデザインすることが重要だ。そのためにはまず、データの発生源を決め切ることだ。誰がいつまでに何を登録・承認するかを固定し、現場で発生した事実をログ化(記録)する。
次に、SaaS(ソフトウェアのクラウドサービス)で一元化し、勤怠・人事・給与・ワークフローを同一データベースまたはAPIで同期することで、締め日に素材が揃っている前提に切り替える。加工は標準パッケージに任せ、設定は規程の改定と一体でバージョン管理。チェックは「法令違反は支給ブロック」「運用不備は要承認」など判断の線引きを決めておき、一覧で影響金額・人数・処理見込みを見える化する。問い合わせや監査に備え、計算根拠と対応履歴は証跡化する。ここまで整えると月末の“火消し”は確実に減る。
■承認と説明責任は人が
いま、給与計算は大きく変わりつつある。SaaSでの一元化だけでなく、AIが規程や通達から検証ルールを生成し、分布外の数値を自動で見つけ、説明文を付けることまで期待できる。月次の後追いでなく、平時の常時監視と事前是正が当たり前になる。法改正や制度変更が入っても、チェック項目を動的に更新し、翌月の運用に反映できるようになるはずだ。
それでも最後に支給可否を判断するのは人だ。例外や公平性の調整、現場の事情との折り合いは規則だけでは決め切れない。だから機械が集め・加工し・チェックしても、承認と説明の責任は人が持つ体制にする。
つまり、「集める→加工→チェック→説明→判断」という線で設計し、SaaSの一元化とAIで自動化を進めつつ最終判断は人が握る、そんなデザインをする力が現場では求められている。



