法務省矯正局はこのほど矯正行政全体のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を定めた。中央省庁として先進的な取組みの背景には、2022年に名古屋刑務所で起きた職員による受刑者への暴行事件への反省と危機意識があった。再発を防ぐためには、現場の職員や受刑者の目線に立ち矯正施設自らの組織風土を改めていく必要がある――そうした提言を含む第三者委員会の改革の方向性は、現場職員と市民を巻き込んで定めたMVV制定のプロセスにも表れている。矯正改革推進プロジェクトのメンバーである矯正局総務課の井上普文補佐官に聞いた。
■危機意識から、前へ
22年に発覚した名古屋刑務所での事案は、矯正局の調査によれば22人の主に若手の刑務官が、知的障害の疑いがある者を含む3人の受刑者に10カ月間にわたり400回以上の暴行・不適正処遇行為を繰り返したというものだった。01~02年にも受刑者への死傷事件が起きた同刑務所での事件再発は、社会的にも大きな衝撃を与えた。
折しも22年は、刑法の「懲役」と「禁錮」を「拘禁刑」に一本化し、改善更生を図るため受刑者の個々の特性に応じ、社会復帰に必要な作業や指導を行うことを可能とする改正刑法が成立している。事件を受けて急遽法相の指示で立ち上げられた第三者委員会は、約半年間の議論を踏まえ23年6月に提言書を発表した。
提言では、再発防止に向けた処遇体制や早期発見のための申立制度などの改善策だけでなく、事件が起きる背景となった組織風土の改革や人材確保・育成までを含んだ7つの改善テーマを列挙。
翌7月には、矯正局を中心に「矯正改革推進プロジェクト」がスタートした。
全国の刑務所や少年院をはじめ矯正組織全体の危機意識に基づく同プロジェクトでは、第三者委員会の7つの提言を68の具体的取組みに細分化したアクションプランを設定し、現場職員や受刑者への詳細なアンケート調査に基づく組織風土改革を推進(続編で詳述)。並行して、高齢化や精神障害をもつ者の割合増加といった近年の受刑者の特徴の変化も踏まえ、24年度に約1年をかけて定めたのがMVVだった。
井上さんは「一人ひとりの職員が仕事の意義ややりがいを感じながら働くことが、不適正処遇の再発防止だけでなく良い仕事や処遇の実現に繋がっていることは疑いがありません。職員が前を向いて仕事をしていくために、また社会にそれを伝えていくための旗印として、MVVをつくる取組みを進めました」と振り返る。

■180万字のインタビュー
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