■組織文化を問う(中)
名古屋刑務所で2022年に起きた職員による受刑者への暴行事件(前編参照)は、矯正施設の組織風土のあり方にも大きな問いを投げかけた。再発防止に向けた第三者委員会の調査から浮かんだ課題の一つは、現場の職員がチーム内で気兼ねなく自分の意見を言ったり、誤りを認めたりできる「心理的安全性」の低さだった。若手職員の早期離職に悩む全国の矯正施設にとっても、切実な問題だという。
■10~20%が早期離職
「被収容者数は近年低下傾向ですが、高齢化や精神障害を持つ割合の増加など個別対応が必要なケースが増えています。そうしたなかで採用3年未満の若手職員の10~20%が離職する状況があり、交代制勤務のなかで人員確保に苦しむ矯正施設も少なくありません。特に若手女性職員の定着は悩ましい課題です」
事件をきっかけにスタートした法務省矯正局の「矯正改革推進プロジェクト」メンバーで、矯正局総務課の井上普文補佐官はそう話す。
プロジェクトは、再発防止に向けた第三者委員会の7項目の提言に基づき、68の具体的な取組みに細分化したアクションプランを設定。組織風土や人材育成の課題では、受刑者への蔑称や組織内の隠語の廃止、多様な職員の確保や職員・管理職への研修など、具体的な改革の取組みを進めている(図1)。

提言でも強調されたのが「職場の心理的安全性の確保」であり、根拠となったのは23年4月に実施した5589人の職員へのアンケート結果だった。全国の刑事施設の心理的安全性の平均値は低く、また幹部職員、ベテラン刑務官、若手刑務官の順に低くなる傾向がみられた(図2、3)。


「上司や同僚、また被収容者による職員に対するハラスメント被害も多く、それが心理的安全性の低さに影響していることも考えられます。また矯正の仕事は、感情を抑えて被収容者に向き合う感情労働の面もあります。注意すべきは、職員自身がストレスの大きさに気づかず自分だけで解決しようとしてしまうこと。燃え尽きたり病気になってしまう職員を少しでも減らすために、何が職員のエンゲージメントを下げる要因になっているかを見える化することが重要です」(井上さん)
■職場の課題要因を特定
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