■対象者の選定に恣意なし 差異生じるのはやむをえない
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、業務の縮小や停止を余儀なくされたとして休業命令が発出され、対象となった派遣社員が休業命令の必要性がないこと、休業期間中の手当の不払い、対象者の選定をめぐって訴訟を提起。しかし判決は休業命令の必要性を認め、対象者の選定や手当の不支給も妥当と判断しました。
■事件の概要
原告は企業に派遣される技術社員として、派遣会社である被告に無期雇用されている者です。技術社員は企業に派遣されますが、派遣先が見つからない間は技術を研鑽する待機期間となります(待機期間にある社員を待機社員ともいう)。
被告は新型コロナウイルス感染症の拡大による業績悪化のため令和2年4月、原告に休業を命じました。休業期間は令和4年3月31日まででした。休業命令が発令された時点の待機社員割合は20%に上昇。経常利益は同年3月度から4月度にかけて約868万円の黒字から約5749万円の赤字に転じていました。
休業を命じたのは待機期間が90日以上になった待機社員で、対象となったのは原告を含む69名でした。被告は原告に対し、令和2年4月分の給与は休業3日分の平均賃金の6割に相当する休業手当を、同年5月分から8月分までの給与は技術手当を除く所定内賃金額に相当する休業手当を、同年9月分から令和4年3月分までの給与は平均賃金の6割に相当する休業手当を支払いました。
原告は専門技術職として正規雇用されているのであるから、派遣先で労務を提供することができないことは、技術手当を支払わない理由とならない、休業命令には必要性も合理性も認められない旨主張し、訴訟を提起しました。

■判決の要旨
派遣先で就業していない期間の技術手当の支給義務の有無については、就業規則に「技術手当は派遣先に就業している期間に対して支給するものとする。よって、派遣先業務を行っていない期間(待機期間)は原則支給しない」と定め、雇用契約締結時の文書でも示されていることから、契約内容となっており、被告は技術手当の支払い義務を負わないと断じました。
原告の休業が被告の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)といえるかについては、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、労働者一般派遣事業での待機率の上昇や経常利益の赤字化など経営状況の悪化が生じていたこと、収束には数年単位を要するとの予測がされ、早期の状況の改善が見込めない状況であり、休業命令の必要性を認めました。
休業命令の合理性については、原告を含めた対象者の選定が問題となりました。この点、判決は「技術社員のうち本件休業命令の対象者となる者の選定に当たっては、待機期間が連続90日以上になった待機社員という一般的に明確な基準を用いていたのであるから、対象者の選定において被告の恣意は存在しない」としました。
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