■日本語のみの記載は不十分 容易に理解できるものでなければ
外国人労働者の賃金からの寮費控除の適法性についての判例。賃金全額払いを免除させる手続としての書面による労使協定に疑義があり、自由な意思に基づき控除に同意したとは認められないと判断。日本語のみの記載では内容が理解できない、といった判旨は外国人労働者を雇用している会社にとって重要な指摘となっています。
■事件の概要
原告らは、販売促進用商品を企画・製作する会社である被告に勤務していたフィリピン国籍の男性です。被告は平成23年頃から、現地法人でフィリピン人を従業員として採用。令和3年時点で、160名程度の従業員のうち50名程度が外国人でした。
フィリピンから来日した際には書面で労働条件等を説明しましたが、寮費に含まれる具体的な金額についてまでは説明していませんでした。外国人特有の問題を話し合う会議を年2回程度開催。そこでは通訳を通じてタガログ語による説明がされていました。なお、判決のなかでは変形労働時間制導入時の労使協定締結者である労働者代表選出会議で通訳がいなかったことが問題視され、制度の適用が否定されています。
賃金控除については被告と労働者代表Eとの間で、平成20年6月10日付「賃金控除に関する協定書」があり、そこには毎月の賃金支払いの際に旅行積立金等や寮費を支払うことができる旨が記載されていました。
原告らは賃金からの寮費の控除には労使協定の締結と周知が要件であるところ、労使協定締結のための労働者代表が民主的な方法によって選出されていないと主張。外国人従業員と利害を共通にしない日本人従業員が代表となっていること自体、労働者代表の選出過程が民主的かつ不合理なものであったことを推認させるとしました。また、日本語のみの記載である協定書では内容が周知されているとは認められない、労使協定の控除項目を見れば、その金額が労使ともに明確に把握できるものでなければならないと主張しました。
また契約書には寮費6万円の控除を明言する条項は存在しないとして、控除した月額6万円の賃金が未払いであると主張しました。

■判決の内容
判決は総論として、労基法24条1項の賃金全額払いの原則は「使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済的生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものであり、賃金から寮費を控除するためには、同項ただし書きの要件を満たす必要がある」が、「労働者がその自由な意思に基づき賃金からの控除に同意した場合においては、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」に限り違反しない旨述べて、事実を精査しました。
協定書については労働者代表が過半数代表者として選出された証拠がないこと、労使協定締結が原告の就労前であることから、24条1項ただし書きの要件を満たさないとしました。
この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。