■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
労働安全衛生政策においては、建設業から始まって製造業においても、重層請負構造の中で直接雇用していない下請等の間接雇用労働者についても元請・元方事業者が安全衛生責任を負う体制が作られてきましたが、一人親方のような非雇用労働者についてはその対象には含まれていませんでした。安全衛生と表裏一体である労災補償においては、一人親方等の特別加入という仕組みが設けられていましたが、これは本人が保険料を負担するということからみても、災害予防責任はあくまでも本人にあることを前提にするものでした。ところが、これが近年の法令改正によって大きく転換しつつあるのです。
大転換の原因は、2021年5月に下された建設アスベスト訴訟の最高裁判決で、一人親方に対する国の責任が認定されたことにあります。建設アスベスト訴訟では、過去に建設業に携わった労働者や一人親方の石綿への曝露を防止する措置が十分だったのかという点が争われましたが、一人親方の安全衛生対策について国が権限を行使しなかったことについて下級審では判断が分かれていました。これについて最高裁は、国の権限不行使は違法であると明確な判断を下したのです。
この判決を受けて、厚生労働省は2021年10月から労働政策審議会安全衛生分科会(公労使各7名、分科会長:城内博)で、有害物等による健康障害の防止措置を事業者に義務付ける安衛法第22条に基づく省令改正の議論を開始し、2022年1月に省令案要綱が妥当と答申され、同年4月に労働安全衛生規則を始め、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、高気圧作業安全衛生規則、電離放射線障害防止規則、酸素欠乏症等防止規則、粉じん障害防止規則、石綿障害予防規則、東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則が改正されました。これは、雇用労働者でなくても、請負人への発注者が労働安全衛生責任を負うことを規定した初めての立法です。
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