■評価や報酬を現役並みに充実
充実の一途を辿るシニア社員といわれる高年齢労働者の働く環境。高年齢雇用安定法の経過措置の終了に、人手不足が相まって60歳以上の再雇用者の待遇を改善したり、定年制自体を見直す動きが加速している。
自動車部品製造の日本特殊陶業(愛知県名古屋市)は4月から、60歳定年後に再雇用されたシニア社員の人事制度を大幅に改正。管理職相当には7段階、非管理職相当には5段階の資格等級を新たに整備し、役職就任も可能とする。現役世代と同じ期待役割を担う場合には、再雇用後の賃金も現役世代と同水準とし、賞与ではなく成果発揮に応じたメリハリのあるインセンティブ報酬を追加で支給する。

高機能樹脂製品製造のバルカー(東京都品川区)も4月に、従前までのシニア再雇用制度をセカンドキャリアステージ制度へ刷新した。60歳到達で一律に待遇を引き下げる制度を改め、業績・意欲・職責に応じた待遇を実現。給与アップや役職任用、新規登用のほか、家庭環境に配慮して柔軟に働くことも可能にした。
バンダイ(東京都台東区)は4月1日付けで、報酬制度を改定する。初任給にとどまらず、現社員の給与制度も同時に見直して組織全体を活力あップ。定年後に再雇用する61歳以上のシニア社員については、理論年収を158%に引き上げる。
三菱電機は2026年度に、定年退職前と同様の等級・評価・報酬制度を適用するマスターキャリア制度を新設。個人の能力を踏まえた役割の価値を起点とする等級体系と、成果・行動の2つの軸による業績評価を賃金や賞与にダイレクトに反映することで、処遇水準を最大で125%上昇させる。また1年ごとの契約を廃止し、再雇用者本人自らが契約終了時期を61~65歳の中から選択できるように見直す。

このように、定年年齢を本人の意思で選択可能とする制度が一つのトレンドになっている。
大和ハウス工業(大阪府大阪市)は4月1日から、社員自らが65歳または67歳の定年年齢を選択できる人事制度を導入する。13年度に定年年齢を60歳から65歳へと引き上げ、15年度に65歳以降の継続雇用、22年度に60歳での役職定年廃止と相次いで打ち出してきたが、シニア社員の活躍の場をさらに拡大。地域限定社員を除く全国社員に対象を限定するが、給与・賞与や昇降格も従前通り行い、選択した定年年齢で退職一時金を支給する。

スーパー事業のサミット(東京都杉並区)も25年度から、社員のライフアンドワーク支援体制を拡充。定年延長を65歳までの間で本人に選択してもらい、役職や処遇を変更することなく働き続けることを可能にする。
静岡ガス(静岡県)は今年1月に人事制度を改定しており、ワークキャリアに対する制度を拡充するとともに、選択定年制を導入。社員が自身の定年年齢を、60~65歳までの間で選択できる環境をすでに整えている。
定年年齢の延長で、シニア社員の安心感と挑戦意識を引き出す手法もある。大阪ガス(大阪府大阪市)は今年度から、定年年齢を65歳へと段階的に引き上げる。2年に一度ずつ定年年齢を1歳引き上げていき、33年度に65歳に到達させる。加えて、60歳以降も正社員として変わらぬ活躍を期待し、一律の年齢による役職勇退制度を廃止する。

工具・機器製造のトラスコ中山(東京都港区)は4月から、定年年齢を65歳から68歳に引き上げる。併せて、定年後の契約社員として、その後のパートタイマーとしてそれぞれ勤務できる上限年齢も順に69歳から72歳、75歳から78歳へと延長。経験豊富な社員が能力発揮し、やりがいをもって継続勤務することで、若手社員へ指導・育成に力を注いでもらう狙いだ。

このほか、勤怠管理システム開発・販売のオープントーン(東京都千代田区)は、定年制廃止を決定。26年度の制度廃止に向けて、就業規則の改正、新しい人事評価制度の導入の準備を急ぐ。


