木曜日, 10月 24, 2024

教育訓練給付制度の有為転変(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

今年5月10日に成立した改正雇用保険法は、被保険者要件を週所定労働時間20時間以上から10時間以上に拡大するという大きな目玉のほかにも、教育訓練給付や育児休業給付に関するいくつもの重要な改正が含まれています。今回は、1998年に生み出されてからほぼ四半世紀になるこの教育訓練給付制度の経緯を概観していきたいと思います。

教育訓練給付制度は1998年3月の雇用保険法改正で創設された制度ですが、それに先立つ1990年代は、職業教育訓練政策の方向性が、企業内教育訓練中心から労働者の自発的教育訓練重視へと徐々にシフトしていった時期でした。当時の職業能力開発計画や研究会報告書には、「個人主導の職業能力開発」とか「キャリアは財産」というキャッチフレーズがちりばめられていました。その方向性の延長線上に、事業主を通した間接支援ではなく、純粋に労働者個人に対する給付として、教育訓練給付制度が設けられたのです。ちなみに、これは時代の空気に棹さすものでもありました。小渕恵三内閣の下で官邸に設置された経済戦略会議(竹中平蔵氏が委員として参加)が1999年2月に答申した「日本経済再生への戦略」の中で、「能力開発バウチャー」が提起されていたのです。

こうして創設された教育訓練給付は、事業主負担による雇用保険3事業とは異なり、労使折半で負担して、直接労働者に支給される給付金です。支給対象者は被保険者期間5年以上の在職労働者で、特筆すべきはその支給額で、労働者が負担した教育訓練の入学及び受講に係る費用の80%で上限は20万円とされました。授業料25万円のうち自己負担は5万円だけでいいというのですから、太っ腹な大盤振る舞いです。しかも、実際に施行されると、対象講座があまりにも広範に指定され、初歩的な英会話教室やパソコン教室のような、就職時に求められる職業能力という観点から見てどうかと思われるようなものまで含まれたため、運用に批判を受け、対象が絞られるといったこともありました。制度創設からの数年間に受給者数は年間20万人、30万人、40万人を突破し、支給金額は400億円を超え、900億円に迫る勢いでした。

しかし、教育訓練給付を揺るがす最大の問題は雇用保険財政にありました。バブル崩壊の影響で1990年代半ばから既に雇用保険財政は悪化し始めており、2000年改正で自己都合離職者の給付日数は大幅に切り込まれ、次の2003年改正で遂に教育訓練給付にメスが入りました。これにより給付率が80%から40%に引き下げられましたが、被保険者期間3~5年未満の者も給付率20%(上限10万円)で対象に含めました。かなり小振りな制度になったと言えます。この改正により、教育訓練給付の受給者数やとりわけ支給金額は2004年度から急減しました。その後2007年改正では、給付率は一律に20%とされ、上限も一律に10万円に引き下げられました。こうして教育訓練給付は極小化されました。その後受給者数は12万人台を推移し、支給額は40億円台にとどまりました。

しばらく逼塞していた教育訓練給付が再び拡大を始めたのは、2012年末に政権に復帰した自公連立の第二次安倍晋三内閣の下ででした。同内閣は、2013年初めから経済財政諮問会議、規制改革会議、産業競争力会議などを復活、設置して新たな政策方向を打ち出し始めましたが、その中で「学び直し」という政策が打ち出され、同年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換(失業なき労働移動の実現)」という項目の中で、次のように書き込まれたのです。

○若者等の学び直しの支援のための雇用保険制度の見直し

・非正規雇用労働者である若者等がキャリアアップ・キャリアチェンジできるよう、資格取得等につながる自発的な教育訓練の受講を始め、社会人の学び直しを促進するために雇用保険制度を見直す。労働政策審議会で検討を行い、次期通常国会への改正法案の提出を目指す。あわせて、従業員の学び直しプログラムの受講を支援する事業主への経費助成による支援策を講ずる。

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