土曜日, 10月 12, 2024

制度の本旨からかけ離れた被用者保険と国民(自営業者)保険(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

去る7月3日、厚生労働省は「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」(学識者17名、座長:菊池馨実)の「議論の取りまとめ」を公表しました。被用者保険というのは、国民年金に対する厚生年金保険、国民健康保険に対する健康保険のように、被用者と自営業者で分立している社会保険制度における被用者向けの制度を指します。とはいえ、本来自営業者向けであった国民年金や国民健康保険に被用者保険からこぼれ落ちた多くの被用者(そのほとんどは非正規労働者)が含まれていることは周知の通りです。また、非正規労働者であるパート主婦の多くが、年金制度においては第三号被保険者、健康保険制度においては被扶養者というカテゴリーに属することによって、そこから排除されていることもよく知られています。

こうした被用者保険に関わる法政策は、それ自体としては純粋の社会保障法政策に属し、労働法政策に属するものではありませんが、非正規労働者の在り方を社会的に決定づける大きな力を有しており、その動向は労働法政策の観点からも注視する必要があります。本連載においても、2020年1月5日号の「2020年年金法改正の論点」において、2020年改正に向けた動きを紹介しています。

2020年改正で最も注目されたのは、2012年改正で従業員500人以下の中小企業について拡大が猶予されていた週労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者の適用拡大でした。さまざまな利害調整の結果、2022年10月から従業員101人以上の企業に、2024年(今年)10月から従業員51人以上の企業へと段階的に拡大されることになり、前者は既に実施されています。後者の拡大がまだ実施されていない今年の2月にこの懇談会が始められたのは、昨年いわゆる「年収の壁」による就業調整問題が改めて注目され、これまで主担当であった年金局だけではなく健康保険を所管する保険局も本格的に共管する形で議論を進める必要が感じられたからでしょう。

この「議論の取りまとめ」は、これまでの状況を概観した後、基本的な視点として、①被用者にふさわしい保障の実現、②働き方に中立的な制度の構築、③事業所への配慮等を挙げ、具体的な「短時間労働者に対する適用範囲の在り方」として次のように述べていきます。一番重要なのはいうまでもなく企業規模要件ですが、その前に2012年改正で導入された3要件についても検討しています。

まず週所定労働時間20時間以上という労働時間要件については、2024年(今年)の雇用保険法改正によって週10時間以上と大きく拡大されたこととの関係が問題になります。雇用保険の適用拡大は2028年10月からとやや先ですが、これに合わせて引下げるべきという議論もあったようです。ただし、事業所等の負担に加えて「雇用保険とは異なり、国民健康保険・国民年金というセーフティネットが存在する国民皆保険・皆年金の下では、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きするべきか議論を深めることが肝要」という理屈から、「雇用保険の適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要がある」と、消極的なスタンスを示しています。

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