化学品や情報システムなど複合商社の三谷産業(石川県金沢市、従業員数591人/単体)は7月から、中途採用者を対象に前職までの就業年数を通算した年次有給休暇(年休)付与ルールを始めた。自社での勤務年数と同等に換算し、例えば通算で7年以上の就業経験のある転職者は20日間の年休を付与される。離職率の低下や転職市場での優位性確保を狙う大胆な判断の背景には、独自に「良い会社」を定義した非財務指標開示の取組みがあるという。詳しく話を聞いた。
■選ばれる会社目指し 背景に長期の非財務目標
「健康面での安心感やライフサイクルに対応できる環境などについて、実際に中途入社した社員の声もあり、思い切って年休を追加付与する案を採用しました」と、人事部人事課の木山哲彦課長は話す。
中途入社の社員には、前職までの通算した就業年数を勤続年数と同様に換算して年休が付与される。例えば3年半以上の就業経験があれば14日間、6年半以上では20日間となる。付与のタイミングは、4月から9月末までの前期に入社した場合は入社時点で付与。10月から3月末の後期に入社した場合は、入社時点で一旦5日間が付与された上で翌年度の4月1日に新たに全年休日数が付与される。就業年数の定義は正規雇用の期間とし、複数社での勤務や空白期間があっても通算して数える。制度は選択制で、従来通りの年休算定ルールを選ぶことも可能だ。また過去7年間に入社した中途採用社員に対しても、遡及適用して追加付与している(表1)。
「もともと新卒採用に力を入れてきましたが、技術者などをはじめ転職市場の活性化や吸収合併による中途社員の増加などもあり、近年通年での中途採用も重視しています。年休は処遇の一要素ですが、社員のことを考える会社の姿勢を示すことで、転職先として選んでもらうという狙いもあります」
「思い切って」という木山課長の言葉通り、中途採用者にとっては健康や家庭面でも心強い一方、経営的にも大きな判断だ。その背景には「良い会社」とは何かを追求し、具体的な指標を独自に定義して約3年前に制定した「非財務経営目標(Company Well-being Index:以降CWI)」があるという。
CWIは企業活動の財務的側面と両輪をなす長期的な視野からの経営目標として、「事業基盤」「事業変革」「公益事業」の3つの観点で指標化。人事労務面での関わりの大きい事業基盤の指標を表2に抜粋した。
今回、年休追加付与の直接の背景となったのが「年10日以上の有給休暇取得者数」の指標だ。国内グループ企業の平均値62.2%をさらに向上させるために、年休の追加付与に踏み切った。
「CWIの指標は社内外の状況などを踏まえ常に更新しており、年休取得者数も新たに設置した指標の一つです。指標化の際には社内で、『年休は権利であって取得するかは本人の自由。会社で目標とするのはどうなのか』などの議論もありました。ただ年休を使わない人も実際に多く、積立ての仕組みもあるものの、会社としてはせっかく付与したものは使ってほしいと取組みを続け、徐々に社内も変化しています。なお法律での義務付けは年5日ですが、それを上回る年10日以上を指標に設定しました」
■有報も独自指標を開示 「うちの会社らしさ」へ
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