木曜日, 11月 21, 2024

フリーランス・ギグワーカーの労働者性と保護の在り方(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

去る6月21日、いくつもの政府の政策文書が閣議決定されました。その中で注目されたのはもちろん経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2024新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版で、例によって三位一体の労働市場改革という旗印の下で、ジョブ型人事とか職務給といった流行語が踊っています。しかし今回取り上げるのはそれらと同日付で閣議決定された規制改革推進計画の方です。こちらにも労働政策に関わる項目がいくつも並んでいるのですが、どれもひと味違ってやや玄人好みのトピックを扱っているのです。

具体的には、フリーランス・ギグワーカーの労働者性及び保護の在り方、労使双方が納得する雇用終了の在り方、「自爆営業」の根絶、副業・兼業の円滑化という4項目が挙がっています。このうち、二番目のものは解雇の金銭救済制度の検討を急げ、そのために早急に調査を実施せよというもので、私自身が過去10年以上にわたって実態調査に関わってきたテーマであり、またまた発破を掛けられてしまった、というものなのですが、こちらについてはまた改めてじっくりと取り上げたいと思います。

今回の規制改革推進計画で目新しいのは一番目のフリーランス・ギグワーカーの労働者性・保護の在り方と三番目の自爆営業ですが、特に最初のものはここ数年来世界的に大きな問題となり、本連載でも再三再四にわたってEUやILOの動向を紹介してきたテーマです。それが、今回規制改革という枠組みから対応を求められることになったわけです。

まずは、今年の規制改革推進計画においてこの問題がどのように取り上げられているのかを見ましょう。

a 昭和60年の「労働基準法研究会報告」(以下「研究会報告」という。)に基づく労働基準法上の労働者性(以下「労働者性」という。)の判断基準(以下「判断基準」という。)においては、「業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無」は「指揮命令の程度が問題であり、通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合には、指揮監督を受けているとは言えない」とされているが、現実には、就業者及び事業者による個別具体的な判断に当たって解釈が容易ではなく、特に、事業者側の人間による就業者に対する直接・対面の指示ではなく、アプリやAI、アルゴリズムを用いた連絡やGPSを用いた就業状況の把握など、研究会報告が取りまとめられた当時には想定されていなかったデジタル技術の扱いが不明確であり、労働者性の有無の予見可能性が低い状況にあるとの指摘がある。これらを踏まえ、厚生労働省は、労働者性がある働き方をしているにもかかわらず、名目上は自営業者として扱われ、最低賃金を始めとする労働基準法等に基づく保護を受けられていない、いわゆる偽装フリーランス問題の解決に資するよう、国民にとって労働者性の有無の予見可能性を高める観点から、例えば、配達業務を行う就業者に対して発注者が具体的な配達経路を連絡し、当該連絡に従わない場合には制裁を科す等の措置により当該連絡に従うことを強制するなど、就業時間中に発注者が就業者の業務遂行方法について業務の性質上当然に必要な範囲を超えた連絡を行い、就業者に対して当該連絡に従うよう強制するような場合には、人間による直接の指示ではなく、AIやアルゴリズムによる連絡であっても、業務遂行上の指揮監督関係を肯定する方向に働くことを明確にするなど、研究会報告による現行の判断基準を引き続き基礎としつつ、デジタル技術の活用等を踏まえた判断基準の明確化を検討し、その結果を踏まえ、就業者・事業者双方にとって分かりやすく解説するなどの周知を行う。

b 厚生労働省は、例えば、取引相手たる配達業務従事者にヘルメット等の安全器具の着用を求めることや、事故等の発生時に安全確保のために退避指示を行うこと、長時間就業する者に就業時間の短縮を推奨することなど、業務委託の発注者が安全管理又は健康確保のために取引相手(就業者)に対して行う「指示」「推奨」その他の連絡が、就業者の労働者性を肯定する要素である「指揮命令」や「拘束」と評価されるか否かが明確でない場合、当該連絡が「指揮命令」や「拘束」に該当するのではないかとの懸念から、発注者が、当該就業者自身及び顧客のための安全管理又は当該就業者自身の健康確保に資する連絡をちゅうちょするおそれがあるとの指摘があることを踏まえ、法令等に基づき国が発注者に義務付けているものも含め、安全管理又は健康確保のための就業者に対する連絡について、例えば、就業者への拘束を強める目的ではなく、安全管理又は健康確保を目的として行う就業時間の上限管理に係るものについて、業務委託契約の内容として、長時間就業による健康への影響を防止する観点から、就業時間の上限の目安について就業者と発注者が合意した上で、就業者がその目安に沿って自ら就業時間管理を行えるよう発注者が注意喚起を行うことは、判断基準における「指揮命令」や「拘束」として評価されるものではないと整理するなど、判断基準における「指揮命令」や「拘束」として労働者性を肯定する方向に働くものとそうでないものを整理し、発注者及び就業者に周知する。

c 厚生労働省は、労働者性の有無についての国の判断が、現状では、労災事故や労働紛争に関する訴訟等の提起前には明らかにならない事案があることや労働基準法第104条に基づき労働基準監督署へ労働者性に関する違反事実の申告等を行っても労働者性の判断に至らない事案が半数近くに上るとの調査結果もあることを踏まえ、労働者性がある働き方をする者が就業開始後早期に労働基準法等の保護を受けられ、また、社会保険料等の負担の有無に起因する競争環境の公平性を確保する観点から、例えば、ドイツにおいて就業者又は事業者の申請に基づき年金保険機構が自営業者か被用者かの地位確認を行う手続があることや、建設業の一人親方について判断基準を整理したチェックシートを用いて労働者性の自己診断の支援が行われていることを参考に、①自らを労働基準法上の労働者だと考える者から労働基準関係法令違反に関する相談を受ける窓口を整備する、②労働基準監督署は、自らを労働基準法上の労働者だと考える者からの申告に対して、関係者から資料が収集できないなどの特段の事情がない限り、原則として、労働者性の有無の判断を行うことを就業者に対して明確化するなど、労働者性の有無の判断が適切に行われるよう、必要な措置を行う。

d 厚生労働省は、「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」(令和6年5月28日)において、作業時間が契約期間で平均週40時間程度、契約期間が1年以上など労働者に近い専属性がある個人事業者等が一般健康診断と同様の検査を受診するのに要する費用を発注者が負担することが望ましいとされている点について、フリーランス・ギグワーカーへの発注控えにつながるおそれがあるとの指摘が当事者自身から行われていることを踏まえ、当該ガイドラインの公表後、一般健康診断の費用負担を理由とした発注控えの実態を調査し、当該理由による発注控えが生じていることを把握した場合には、当該ガイドラインの見直しも含めて必要な対応を検討し、実施する。

 これら4項目の実施時期はそれぞれ、aとcは令和6年度検討開始、結論を得次第速やかに措置であり、bは令和6年度措置、dは令和6年度措置、それ以降継続的に措置となっています。要するに、bとdは今年度中に何とかしろ、aとcも今年度から議論を始めて早々に措置しろというタイムスケジュールです。

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