4月から民間企業の障害者法定雇用率が2.3%から2.5%へ引き上げられるなか、働きやすい職場環境に向けて義務付けられている「合理的配慮」をどう進めるべきか。障害者職業総合センターの春名由一郎・副統括研究員は、「合理的配慮は障害者が仕事をしやすくするための個別の調整であり、企業としては生産性向上のための取組みと位置づけることが重要」と指摘する。諸外国の障害者雇用をめぐる最新動向や歴史的背景を踏まえ、ポイントを詳しく聞いた。
■合理的配慮は誤訳?
「『合理的配慮』という言葉は、『障害者は配慮や支援をしてあげるべき存在』といった誤解を生みかねない翻訳語であり、元々の”Reasonable Accommodation”の意味は障害者が仕事を進めやすいように個別に調整することです。そのため米国の企業向け研修などでは、『生産性向上のための取組み』と明確に位置付けて進めています」
春名氏は考え方の背景について、こう説明する。
「『仕事ができない人たち』『支援が必要な人たち』といった前提での障害者の捉え方は、新たな差別や排除を生み、社会が障害者をつくってしまうことにもつながりかねません」
欧米などでの障害者雇用の理念や実践の最新動向を、春名氏が中心となってまとめた「諸外国の職業リハビリテーション制度・サービスの動向に関する調査研究」(障害者職業総合センター、2023年)は、障害、仕事、支援の3つの捉え方が国際的に転換し、新たな展開を見せている動向を分析。障害の捉え方では、障害が個人の側にあるとする「医学モデル」や社会の側にあるとする「社会モデル」があるが、現実には個人と環境の相互作用であるとする「人権モデル」を前提に、「個別の職業目標や強みに応じた就労支援の質の向上」こそが中心課題となっていると指摘する。
「病気や障害などで困っている人をはじめ、すべての人の働く権利や人権が保障されるべきという考え方が背景にあり、障害者権利条約でも国際的な共通認識になっています」
■経営を評価する指標としてのDEI
では具体的に合理的配慮を進めるポイントは何か。一例としてEUが発行する合理的配慮の実践ガイド抜粋(表1)を見てみよう。技術的な解決策については、個別の障害者のニーズに沿って仕事のしやすさを補完するものである一方、職場調整などの施策は柔軟な労働時間制度やテレワーク、適職配置や研修・啓発など、むしろ一般従業員も含めた人事施策としても重要な取組みであることが見えてくる。高いコストが必要とは限らないというのも大事なポイントだ。
「米国などでは、障害者と企業が協働するために障害の自己申告を重視しています。しかし、開示した際の不利益を恐れて非開示のまま就労している障害者も多い。安心して自己申告できるためには、不利益扱いはもちろん障害者か否かを調べて掘り起こすような行為や、個人情報の漏洩などを防止するガイドラインの徹底が前提であり、その上で上司との良好な関係性や多様性を受け入れる職場文化の醸成が重要でしょう」
こうした職場の多様性を、コストではなく「企業の経営上のメリット」と捉える考え方は、国際的な潮流となっているという。例えばILO(国際労働機関)の「職場調整による多様性と包摂性の推進ガイド」(2016年)によれば、合理的配慮の提供を通じて社員の多様性が促進され、アイディアやスキルなど企業競争力の向上、包摂的な職場文化や定着率の向上がもたらされると指摘。また合理的配慮は病気や出産・育休後の円滑な職場復帰にも通じ、離職コストの削減や女性のキャリアアップ、さらに顧客サービス向上に資するなど経営上のメリットが指摘されている。
「最近注目されている動向として、米国におけるDEI(障害公正指標)の取組みがあります」
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