■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
昨年末の12月22日、労働政策審議会の労災保険部会で、労災保険法施行規則の改正案が承認されました。これは、これまで個別業務ごとに少しずつ増やされてきていたフリーランスの労災保険への特別加入を、一気にフリーランス一般に拡大するもので、そのインパクトはかなり大きなものがあると思われます。今回はこの経緯を簡単に振り返っておきましょう。
そもそも労災保険制度は、労働基準法適用労働者の労働災害に対する保護を目的とした制度であり、労働者でない中小事業主や自営業者は対象としていません。しかしながら、これら非雇用労働者の中には業務の実態から見て労働者に準じて保護するにふさわしい者が存在することから、1965年労災保険法改正により一定範囲について特に労災保険への加入を認めることとされました。しかしながら、実はそれ以前から通達による擬制適用という形で特殊な取扱いが認められてきていたのです。まず1947年11月、土木建築事業に従事する労働者の中には、いわゆる一人親方として、その実態が一般労働者と変わらない者があることから、任意組合を組織させ、その組合を便宜上使用者として保険加入させたのが始まりです(基発第285号)。これがその後次第に拡大されていきました。やがて、1963年10月の労災問題懇談会報告において「自営業主、家内労働者への適用を考慮すべき」との意見が出され、これを受けた労災保険審議会は1964年7月、「一人親方、小規模事業の事業主及びその家族従業者その他労働者に準ずる者であって、労働大臣の定める者については、原則として団体加入することを条件として、特別加入することを認める」と答申しました。労働省は翌1965年3月法案を提出し、6月には成立に至りました。
これにより、中小規模事業主とその家族従業者、一人親方とその家族従業者及び特定作業従事者について、特別加入制度が設けられました。中小事業主に特別加入を認めたのは、事業主が労働者とともに労働者と同様に働くことが多く、労働者に準じて保護するにふさわしいことに加えて、特別加入を通じて中小企業の労災保険への加入を促進しようという政策意図が働いていました。一人親方については、土木建築事業のほか、自動車運送(個人タクシーやトラック)、漁業が認められました。また特定作業従事者としては、危険な農機具を使用する自営農業者が指定されました。その後、1970年に家内労働法が制定され、危険性の高い作業を行う家内労働者等が特定作業従事者に指定されました。具体的には金属加工、研磨作業、履物製造加工、陶磁器製造、動力織機等です。また、1976年には一人親方に林業と配置薬販売業が加えられ、1980年には廃品回収業も加えられました。
一方、2017年3月の働き方改革実行計画の策定以降、雇用類似の働き方に対する保護の在り方が議論されるようになります。その具体的な動きは後述しますが、その一環として労災保険の特別加入を徐々に拡大するという政策が採られていくことになります。すなわち、2020年6月から労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会で順次審議が行われ、翌2021年1月には芸能従事者、アニメーション制作従事者及び柔道整復師、同年2月には高年齢者雇用安定法改正によって導入された創業支援等措置による就業者、さらに同年8月にはプラットフォーム型フードデリバリー等の配達員(省令上は「原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業」とやや広い規定ぶりです。)、フリーランスのIT技術者が追加されました。その後も、2022年4月から按摩マッサージ指圧師、鍼師及び灸師、同年7月から歯科技工士と、続々追加されてきたのです。
ここで、労災保険からいったん離れて近年のフリーランス保護法政策の動きを概観しておきます。厚生労働省は働き方改革実行計画を受けて、雇用類似の働き方検討会で政策の方向性を議論し、さらに雇用類似の働き方論点整理検討会で一定の提案をする寸前までいきましたが、コロナ禍の2020年になると政府全体の流れが公正取引委員会主導で進められる方向に向かいました。公正取引委員会は既に2018年2月に人材と競争政策に関する検討会報告を取りまとめ、発注者の優越的地位の濫用という観点からこの問題に取り組んでいくことを明らかにしていました。その後2020年6月の全世代型社会保障検討会第2次中間報告では、フリーランスとの取引について、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法の適用に関する考え方を整理し、ガイドライン等により明確にすること等を、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省連名で年度内に策定するガイドラインに盛り込むと明記され、これは翌7月の成長戦略実行計画にも盛り込まれました。こうして翌2021年3月には、公正取引委員会、経済産業省、厚生労働省の連名でフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインが策定されました。そこでは、公正取引委員会による独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請代金支払遅延等防止法の適用に関する考え方を整理しています。
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