金曜日, 5月 3, 2024

欧州労使協議会指令の改正に向けた動向(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

今年(2023年)に入ってから、2月2日に欧州議会が欧州労使協議会指令の改正提案を含む欧州委員会への勧告を決議し、4月11日に欧州委員会がEUレベル労使団体への第1次協議を開始し、7月26日には第2次協議に進むという風に、同指令の改正に向けた立法の動きが加速化しています。今回はこの指令のこれまでの歴史を概観するとともに、今回の改正に向けた動向を概説したいと思います。

EUの欧州労使協議会指令は、長期にわたる労使間及び加盟国間の鬩ぎ合いの結果、いまから30年近く前の1994年9月に成立したEU労使関係法制の要石ですが、その鬩ぎ合いの副産物として異様に複雑怪奇な仕組みとなってしまいました。指令の適用対象は、EU全域で1000人以上かつ2以上の国で各150人以上雇用する多国籍企業ですが、設立手続として本則の特別交渉組織による自発的設立のほかに、経営側が6か月交渉に応じないか労使が3年間合意しない場合に附則の補完的要件に基づいて強制設立されるというムチの規定、そして指令の施行日(1996年9月22日)までに欧州労使協議会に相当する協定を結んだ場合には指令を適用しないというアメの規定がありました。これはつまり、先行して労使協議会みたいなものを作っておけば、指令の細かい規定に拘束されずに済むというもので、30年近く経った現在でも大部分はこのレガシー協定です。

同指令は2009年5月に改正されていますが、文言整理のための「recast(再制定)」指令と位置づけられており、あまり内容に関わる改正はありません。ただ、1994年指令が特別交渉組織について「自ら選択した専門家の援助」とのみ規定していたのが、「権限ある認知されたEUレベル労働組合組織を含む」と明記され、さらに「かかる専門家及び労働組合代表は特別交渉組織の依頼により諮問的地位をもって、交渉会合に出席することができる」と付け加えられました。これが現行の欧州労使協議会指令です。

今回の動きの出発点は、欧州労連が2014年10月に採択した「職場のさらなる民主主義のための新たな枠組に向けて」という決議です。これは、情報提供と協議に加えて役員会レベルの労働者参加までをEU指令で規定すべきというものでした。欧州議会は2021年12月16日の決議「職場の民主主義:被用者の参加権の欧州枠組及び欧州労使協議会指令改正」において、下請連鎖やフランチャイズを含めたあらゆる欧州企業における情報提供、協議及び参加の枠組を導入するとともに、先行設立企業の適用除外(レガシー協定)を終わらせることを求めました。その後、欧州議会は2023年2月2日の決議「欧州労使協議会指令の改正に関する欧州委員会への勧告」において、同指令案の改正案を勧告として添付しつつ、2024年1月31日までに指令改正案を提案するように求めました。具体的には、情報提供と協議がされるべき「国境を超えた事項」概念の拡大、「協議」の定義を修正して欧州労使協議会の意見に対して理由を附した回答を求めることやその意見が経営側によって考慮されるべきことも規定すること、情報提供と協議がなされなかった場合に企業の意思決定が保留され、2千万ユーロないし売上げの4%の罰金を科し、公共調達から排除すること、欧州労使協議会に機密事項かどうかを判断する客観的な基準を示し、企業活動を著しく阻害するとみなす情報へのアクセスを制限する際に事前の司法当局の認定を求めること、欧州労使協議会設置の交渉期間を18か月に短縮すること、そして先行設立企業の適用除外を終わらせること、などが挙げられています。今年の4月、7月と急に欧州委員会が労使団体への協議を開始したのは、これを受けてのことでした。

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